十二月【誕生花・カトレア/誕生石・ターコイズ】(HL)

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 妾は、カトレア。母上と父上から貰ったこの名を呼ぶ者は、今はめっきり、減ってしまった。皆、妾のことを陛下、陛下と呼んでくる。王の名を呼ぶのは恐れ多いとか言われるが、王家が実際に国を支配していたのはもう数百年も前の話。最早、ただのお飾りである今の王室の名を呼ぶことが、そんなにも恐れ多いものだとも思えない。
「どうせお飾りなのじゃから、そろそろ滅んでも良いものと、妾は思うぞよ?」
「まかり間違っても、この国の民には聞かせられない内容でございますね」
 呆れ返った表情のこの青年は、ターコイズ。現在、妾の無聊を慰めるという名目で城に呼ばれた、旅芸人一座に付き添っていた護衛の者だ。
「わかっておる。故に、其方に聞いてもらっているのじゃろう」
 何の役にも立たない王室を維持するために、毎年それなりに多くの予算が割かれているのが本当に心苦しいが、実際にそれで養ってもらっている立場では、文句を口にする資格などない。それでも胸の内に積もる思いを、こうして流れの者たちに聞いてもらうのが、最近の良くない習慣となりつつある。
「この国の女王であることは、そんなにお嫌ですか」
 思わず嘆息したら、ターコイズが真面目な顔で訊ねてきた。しかし、いかな妾とて、その問いに直接答えることは憚られる。無言で笑むと、彼に嘆息が移ってしまった。
「跡継ぎがいれば、辞めることはできますか?」
 今までは来なかった質問に、思わず瞬いた。その拍子に堪えていた涙が一粒、零れ落ちた気がしたが、きっと気のせいであろう。妾は、人前で泣くなと躾けられた故に。
 チッと舌打ちの音が聞こえた次の刹那、目の前に碧い瞳があった。
「とっとと跡継ぎさえこさえたら、この国から逃げられねーのかって聞いたんだよ、カトレア」

キャラクター紹介

カトレア

花言葉:「優雅」「品格」「あなたは美しい」
「洋ランの女王」とも呼ばれ、可憐で大きな花を咲かせます。

女王様らしいので、女王様設定。大きな瞳が可憐な印象を与えるノジャロリっ子。
この後、ターコイズと一緒に駆け落ちする可能性も。
ただ、責任感は強いので、意外と国に残っているような気もする。

ターコイズ

石言葉:「成功」「繁栄」「健康」
「旅」、そして「人生の旅」のお守りとなる石です。
人からプレゼントされる方が幸せになれるなどの言い伝えがあります。

旅のお守りなので、旅芸人一座の護衛。
本来の口調は粗いが、王宮に呼ばれることもあるため取り繕うこともできる。
カトレアにいつの間にか惚れ込んでしまっていた。