『かくて歯車は集う』メンテナンス
縦横変換 感謝をされた方の耀夜は、朗らかに笑った。
「助けになれたなら、それが私にとっても救いだ。修理に設備が必要なら、奏音は帰るべきだな?」
頭を抱えていた奏音が、更に衝撃を受けた様子で耀夜を見上げる。璃音もまた、考え込むような素振りを見せた。
「義躯の方の修理は、正直、天音にぃがいて部品があれば、何とかなる気がする。でもこの際、奏音にもシステムチェックが必要かもしれないと思っている。我々のシステムメンテナンスは奏音の役割だけれど、奏音のメンテナンスは、天音にぃが万全の状態でやっと行えるかどうか」
「天音にぃってさっきから言ってるの、もしかして幸崎天音博士のこと?」
好奇心を抑えきれずに割り込む風薫を奏音が再度睨み付け、璃音は苦笑いした。言葉にせずとも、それが答えを物語っている。
「幸崎博士は、組織から粛正されて、研究所ごと潰された。奏音が、天音にぃの唯一の例外なのは、色々と、やむを得ない事情が重なってしまってのことだから、もう絡繰子が増えることはないだろう」
「えーと、璃音兄さん、個人的にはもう一人、候補いますけど」
奏音の指摘に、璃音は表情を曇らせた。
「そうだな。候補、ではあるか」
「もうちょっと詳しい居場所と、もうちょっとの戦力が欲しいんですけどね」
「それは我々の問題だから、一旦置いておくか。奏音、ここの技術士は、奏音から見て、どうだった?」
璃音は強引に話を戻し、奏音は表情を緩めて視線を聖也に移す。そのまま奏音が動かなくなったので、耀夜は璃音に問い掛けた。
「当方の技術士、が何か?」
「奏音さえ良ければ、メンテナンスを手伝ってもらってはどうかと思ったのだが、その技術力は如何ほどかと」
凄い話が目の前で繰り広げられているなぁと、半ば現実逃避気味に傍観していたのに、一気に話題の中心に据えられたと悟った聖也が、酷く狼狽している。そして、みっともないとばかりに、真理亜から拳骨を下されている。