『かくて歯車は集う』天音の迎え
縦横変換 再び警戒度を上げた奏音に、風薫は切り込んだ。
「シオンって、誰」
奏音は咄嗟に璃音の様子を確認した。まだ耀夜と話し込んでおり、風薫の問いは聞かれなかったようだ。
「ご自身で調べれば如何でしょうか。情報屋なのでしょう?」
「だから、知ってそうな人に聞き込みしてるじゃない」
奏音は憮然として反発した。
「私が、貴女に、詩音のことを話す? 冗談も程々にしてくださいな」
しかし、風薫も諦めずに食い下がる。
「でも知り合いなのよね? 私と見た目が似ていて、よく分からないけどアナタを経由しないと届かないっていうのは聞いたわ。それなら、アナタに話を聞くのは、当然のことじゃなくて?」
「詩音の話か?」
耀夜との相談が終わったのか、璃音が口を出したので、風薫はここぞとばかりに璃音にも同じ問いを投げかけた。
「そうよ。シオンって誰なの? って聞いてたのよ」
「行方不明の妹だ」
さらりと璃音は答え、風薫が与えられた情報を吟味している間に奏音に告げる。
「奏音、天音にぃを迎えに行ってくる。せっかくの機会だし、まとめて天音にぃの思考プログラムも聖也に見てもらおうって話になった。別視点なら、もしかしたらバグの原因が判るかもしれないし」
「わかりました。お気を付けて」
璃音が飛び去るのを見送りながら、奏音はそっと、隣に立つ耀夜の服の裾を、握りしめた。
「どうした?」
柔らかな表情で訊ねてくる耀夜に、奏音の心が揺れる。そう、もし耀夜に詩音の事情を話したら。けれどもそれは、耀夜をますます巻き込むということだ。
散々、絡繰師の事情に巻き込んでおいて今更な話ではあるが、詩音のことは更に解決が難しい。ああ、それでも。
本来なら、詩音と璃音の承諾を得て話すべき事柄。解っていても。
「耀夜さまなら、救い出してくれるのでしょうか」
縋ってしまいたい。その思いが、奏音の口を軽くした。