『そして新たな日常へ』

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 りゅうじんけいがいしゃに、新入社員が入った。
 それ自体は、別にめずらしいことではない。社長に拾われ、そのひとがらんでちゅうはんな時期に入社した社員は、これまでにも何名もいた。そして、そういう人材ほど、何故なぜとがった方面にゆうしゅうなことが多いため、また社長がだれかを拾ったのだろうかと、社員たちは笑っていた。しかし、実際に張り出された辞令を見たしゅんかん、社員たちは一様に真顔になり、顔を見合わせた。
 くだんの新入女性社員に、みょうはなかった。ひんみんがい出身で親の顔も知らずに育てば、有り得なくもない。
 だが辞令にえられている顔写真は、とある有名な旧家のおんぞうほう彿ふつとさせるもので、なおかつおんぞうよりも、美しかった。その顔で、よくぞ今までだれにも目を付けられずに無事だったなと言いたいレベルである。
 挙げ句に経歴もおかしい。表向きにはハンドメイド作家、アンジェ。何故なぜけいがいしゃにハンドメイド作家、と思いながら社外秘のこうもくかくにんすれば、からくり所属のハッカーなどと都市伝説の名前が書かれている。しかも注意書きには、せきずいはんしゃで周囲のプログラムを乗っ取ることあり、あつかいには十分注意されたし、などと、わざわざ赤字で強調されている。
 将来的な所属は情報部となるみであるが、ずは研修のために各部署を回る予定のようだ。常識にうとい面もあり、いっぱんこうについてもかくにんや説明が必要となるかもしれないとのこと。
「どうして入社したんだい?」
 最初の研修先にやってきたのんは、おずおずと答えた。
「社長様に、恩を少しでも返せたら、と思ったのですよ。そうしたら、タダ働きはさせられないとか何とかで、何故なぜか入社していました」
 ああ、にも社長の言いそうなことだ、と社員たちはなっとくする。
「お給金をいただけるのは確かにがたいんですけど、ただでさえ身内がお世話になりっぱなしなので、非常に申し訳ないのです」
 のんの言う身内とは主におんのことであるが、からくりの首にすずを付ける気満々の耀かぐにより、のんまれた形だ。のんがその能力を使えば後ろ暗いぎょうの後ろ暗い裏ちょう簿からお金を引き落とすくらいは朝飯前で、実際、のんが加入してからのからくりはそうやって活動資金を得てきたわけだが、やはり正当な手段で手に入れるお金には思うところがあるのだろう。
「まあ、その分しっかり働いて返せば良いんじゃないか?」
「そ、そうですかね?」
 見た目は美少女であるのんがはにかむ様子はとてもいじらしく、場をほっこりとした空気が満たす。その様子を遠くから見守っていた耀かぐが、満足そうにうなずいて、社長室へもどっていった。