思っていた以上に、夢の中は容赦ない

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じんってさ、想像以上にヘタレだよね」
 真っ白な部屋、くるくるり、白衣の両ポケットに手を突っ込み、すそひるがえしながら、オレらしくない口調で嘲笑あざわらうオレ。明らかに、夢の中だ。
「いきなりグリフォンに出くわすだなんて思わないだろ!」
 言い返した声は、自分の声にしてはやや高く、若々しい。いや、問題はそこじゃない。きちんと、人間の言葉を発している。
 ハッとして自分の体を見下ろすと、見慣れぬ白さの肌が、それ以上に白い布に、頼りなくおおわれていた。高校生くらいの、少年の体だ。
「鏡くらい、パッと出せば良いのに」
 白衣のポケットから片手を出して、オレの姿をした誰かがパチンと指を鳴らす。出現した鏡に映されたオレは無駄に整った顔立ちで、明らかにオレじゃない。更に髪まで虹色の光沢こうたくを帯びた白で、あまりの白さが、あの小動物を彷彿ほうふつとさせた。
「せっかく、このボクの器をちょっとでもあげたっていうのにさ……これっぽちも使いこなせていないの、本当に可笑おかしいやら、勿体無もったいないやら」
 知るかよ⁉︎ と、喉元のどもとまでり上がった言葉を飲み込んだ。それよりも、今得た情報を吟味ぎんみする方が大事だ。
「そうそう、それくらい貪欲どんよくになってくれなくちゃ」
 こちらの思考を読んだかのようにうなずく相手に質問をしようとした刹那せつな、ぐらりと足元がくずれ去る。
「人間に会うよりは、幻獣の方が安全さ。彼等はボクを見間違えたりしないから」
 遠く頭上に、声が消えた。