不思議な小動物
縦横変換 跳ね起きる。激情に身を焼かれる。目に付くモノが敵にしか見えない。
けれど、実際に何かをする前に、気を失ってしまう。
何度、同じサイクルを繰り返しただろう。
気を失うことが、初めてではないと気付いたのは、いつだったか。森の奥に運び込まれている事に気付いたのは。
周りを観察する余裕が生まれると、魔物が俺を遠巻きに見ている事実に戸惑った。
魔物は、凶暴性が高いから、討伐対象にされる。なのに、この島の魔物は、俺が視線を向けると逃げ出してしまう。まるで、普通の野生生物みたいに。
考える余裕が出てきて、周りが敵だらけだとは認識しなくなった。それでもふとした瞬間に暴力的な衝動が沸き上がってきて、そんな時は何故か速やかに魔力ごと意識を刈り取られた。
そう、意識を失うのは、急激に魔力を失うからだ。けれど、魔法も使わないのに魔力だけが失われるって、それこそどんな魔法だ。
もう何度目になるか分からない、目覚め。
跳ね起きる、というほどの乱暴なものでもなく。ただ、瞼が自然と持ち上がった感じの。
起き上がりかけて最初に目が合ったのは、真っ白な毛並みの小動物。器用そうな前足と、瞬発力に溢れていそうな後ろ足、大きな尻尾の。
そう、俺が魔の島に来て最初に掴み掛かったのと、恐らく同じ種類の小動物だ。一番警戒心がないのか、常に俺の周りにいると気付いたのも、最近の話。
「ミュウ(おはよう)」
その小動物は、人間臭く小首を傾げると、一声、甲高い鳴き声を発した。
俺は目を瞬く。今、こいつの言ったことが、挨拶に聞こえた?
「ミュミュ?(やっと聞く気になってくれたのか?)」
これは、俺が遂に完全に発狂した……と、考えても良いのだろうか?
いや、最近調子は良くなっていたと思ったのだが。それは、俺の気の所為だったのか?
あまりの事態に頭が混乱して、起き上がろうとしていた事すら忘れてしまった。カクン、と身体を起こそうとしていた腕から力が抜けて、また地面に倒れてしまう。幸いにも、俺が寝ていた地面には羽毛や草が敷き詰められていて、勢いなく倒れた程度では痛くもなんともなかった。
「ミュウゥ?(おーい?)」
小動物が、横からパタパタと、俺の目の前で前足を振った。
人間、驚きすぎると声も出ないって事が、よく分かった。
「ミュ、ミュウミュ(ま、いっか。もし聞こえてなかったとしても、それはその時だ)」
その小動物はうんうんと頷くと、仰向けに倒れた俺の胸の上に乗り上がり、顔を覗き込んでくる。
「ミュミュウ、ミュウミュミュ(もう気分はマシだろう、悪さをしてた余剰魔力は殆どいただいたからね)」
「……余剰魔力?」
「ミュッ(その通り)」
どうやら、事は俺の全く予想だにしなかった方へ転がっているようだ。
未だに混乱から立ち直れないというのに、その小動物は次々ととんでもない事を言い出したのである。