『かくて耀夜は白華を構う』ハッカーの白華
縦横変換 そして案の定、騒動は起こった。耀夜の予想を斜め上に行く方向で。
携帯用の小さいものとはいえ、通信端末を手に入れた白華。耀夜に内緒で、通信履歴を監視していた聖也によると、最初に行ったことは、ショッピングモール半壊事件のニュースの確認だった。次に、電脳掲示板に入ったので、ハンドルネームが判明するかと聖也は期待したのだが。
通信履歴にエラーが発生して、幾つかの履歴が読めなくなった。
ピンポイントで狙ったように発生したエラーに聖也が首を傾げたそのとき、彼の本来の業務を管理している画面が一瞬だけノイズを発した。
常人ならば見逃していたかもしれないほどの、ほんの僅かな間の出来事。しかし、聖也はその道の精鋭だった。
慌てて、耀夜の屋敷のセキュリティシステムの管理画面を確認し、履歴を追う。重大なエラーログ無し、監視カメラ異常なし、トラップへの侵入者無し、そして各部屋の電子錠は、
「客間が閉まってるっすね?」
白華の居る部屋が、施錠されている。これは、異常なことだ。
通常の手順に従って解錠しようとしていた聖也の手が、止まった。
「コマンドを受け付けない?」
このときに至って、聖也は気付いた。
「えっ、これ、ハッキングされたってことっすか!?」
犯人の心当たりは、当然、一人しかいない。白華だ。
「やっぱり厄介の種じゃないっすか、あのお嬢ちゃん!」
頭を抱えつつも、専属警護の姉、真理亜を通じて耀夜への連絡を行う。
再びエラーログを、今度は軽微なものも含めて確認すると、仕様にはない信号を受信した形跡があった。通常であれば、重大なエラーとして、警告音が鳴るはずの案件。しかし、ほぼ同時にエラーの信号、そのものにも介入され、誤魔化されていたため、一瞬のノイズにしかならなかったのだろう。
強敵の予感に、聖也の背筋がゾクゾクとする。
騒動の始まりだった。