『かくて都市伝説は現れる』真理亜は走った
縦横変換 真理亜が異変に気付いたのは、窓の外の気配が、いつもとは少し、異なるように感じられたからだ。
異変を嗅ぎつける感覚については真理亜は天賦の才をもっており、その才能故に耀夜の専属警護の立場を得るに至っている。
その第六感が、真理亜に窓の外を確認するよう、促した。
窓の外を見た真理亜は、普段の冷静沈着な彼女らしくもなく、絶句する。そこにはそれだけの、とても非常識な光景が、在った。
「大きな鳥……いや、翼を持った人間!?」
できれば、前者であって欲しかった。それでも、十分に非常識な大きさになってしまうが。後者は、大きさについては矛盾ないが、存在そのものがおかしすぎる。人間に空を飛ばせたければ、グライダーなどを使うべきであり、よもや羽ばたく翼など意味不明すぎる。
「まさか、こちらに向かってきていませんか?」
夕闇に紛れて空を舞う影が先程よりも大きくなっていることに、真理亜の表情が真剣味を帯びる。侵入者に対する警報が不発なのは不思議だが、今はそのような些事よりも耀夜の安全の確保だ。
耀夜の部屋に向かいつつ手持ちの端末から監視カメラの映像にアクセスし、眉をひそめて更に歩く速度を上げる。それだけの理由が、監視カメラの映像にはあった。
一言で言えば、完全に過ぎたのだ。正常なようでいて、けれど、真理亜の目から見ても二つ確認できる、異常な点。
一つ目は、言うまでもなく、空を飛ぶ影が映っていないこと。二つ目は、白華の部屋で、部屋の主が寝台に就寝していること。
白華が映像の通りに就寝していることはないだろうと、真理亜は確信している。下手をすれば真理亜以上に気配に敏感で、何かがあればずっと部屋の椅子に座って寝ない白華が、今夜に限って就寝とは怪しすぎた。