『かくて都市伝説は現れる』狼煙は上がった
縦横変換 その夜も聖也は、耀夜に頼まれたとおり、律儀に屋敷のセキュリティシステムを監視していた。
だから一番最初に異変を察知したが、一番最初に頭を抱えることになった。
『月の掌中の珠から呪われた子が堕ちた天使に迎えを請う』
いきなりブラックアウトした監視画面に現れた文言が、これだ。そして、さほど間を置かず、今度は屋敷全体のセキュリティシステムが、見覚えしかない不思議なエラーを出し始めた。つまりは他でもない、白華にハッキングされたということで。
「クソッ、なんてこった!」
システムのパスワードが、秒単位でランダムに変更され、稼働状況の把握すら困難だ。一方で、どれだけ介入しようとしても、一切警告音が鳴ることさえなく、本当に静かな部屋の中で、聖也は白華の手腕に身震いした。
こうなっては、いくら監視カメラの映像が、不気味なほどいつも通りでも、全く信用ならない。聖也は耀夜や真理亜に連絡を取ろうとしたのだが。
「マジかよ!?」
通信電波が相当にジャミングされていることに、目を剥くこととなった。
「いやいやいや、ありえねーっしょ!? 電波ありますよね? 見た目はちゃんと、表示されてんのに通信死んでるとか、え、もしかしてここの電波全部乗っ取られた、とか」
聖也の顔から、完全に血の気が引いた。セキュリティシステムだけならともかく、通信電波までクラッキングする、それも表示に出さないなど、どこの神業だ。
「え、ええー。マジっすか。俺と、あと、風薫ちゃんくらいじゃないすかね、これ解るの。うわぁ、どうしたもんか、これ」
もはや諦観の境地で座っていた椅子に改めて背を投げ出し、ふてくされたようにぼやく聖也。
ふと、自分のその言葉に何かが引っかかり、再度ガバッと身を起こした。
「そう言えば俺、風薫ちゃんにも情報収集頼んでたな。んで、あっちは、面白そうだからこっち来るとか、言ってたような」
敏腕ハッカーで、その腕を活かして情報屋を営んでいる少女が、応援に来るかもしれない。一筋の希望に、聖也の目が光を取り戻す。
「しっかしまあ、代々情報屋でチビの頃からこっちの道だった風薫ちゃんとも張り合えるレベルとか、白華のお嬢ちゃん、本当に一体何者なんっすかね」