『かくて機械屋の本領発揮』現状把握
縦横変換 奏音の大改修に三ヶ月も掛かったからには、天音の方も、短く見積もってすら、恐らく同程度掛かるだろうというのが、皆の一致した見解だった。
「奏音ちゃんの時は、プログラムの癖を把握するのに時間掛けたっすけど、天音の兄ちゃんの場合は、バグを探さないといけないっすからね」
聖也の言うことは、尤もである。
「この指示書、全部その通りにやるんですかね?」
「やるしかあるまい。やらなかったとしても、直ぐに判明するだろう?」
今までにも天音の点検を手伝ってきたはずの奏音が、天音の指示書を見て尻込みしている。璃音の方も、諦めろと口では言いながら、げんなりとした表情だ。
奏音は、ふと気付いたように璃音を見た。
「私と天音兄さんがこれだけ部品交換するのに、璃音兄さんは何も無しですか」
「そういうわけでもないのだがな」
口ごもる璃音の代わりに、嬉々として風薫が語ったところによると、璃音の方も並行して部品の大半を交換されており、後は、奏音による思考用プログラムの最終チェック待ちとのこと。
「すっごく楽しそうですね?」
「楽しいわよ! 最先端技術を見学し放題だなんて、これほど血湧き肉躍ることは滅多にないわ!」
はしゃぐ風薫だが、彼女もしっかりと担当分以上の仕事をこなしている。聖也の補佐も行いつつ詩音の行方を追い続け、その候補地を数ヶ所まで絞り込んだのは、情報屋の面目躍如というべきか。
後は、奏音の持つ情報と照らし合わせて更に候補地を絞り、ザイオンサーバーの代替機と詩音の壮大な入れ替え劇を行うだけだと風薫は笑う。
先に自身の電源を落としていた関係で、風薫と璃音の遣り取りを知らない奏音は、いつの間にか詩音救助の話まで進んでいることに目を白黒とさせた。しかも璃音の居る場で堂々と話をしているということは、璃音もそれを認めているということに他ならない。
思わず、今度は覗うように璃音を見た奏音。璃音は奏音に微笑んだ。
「奏音のおかげで、詩音も助かりそうだ」
経過はどうあれ、今は怒っていないと察して奏音も安心したように相好を崩す。まだまだやるべき事は山積みながらも、場は明るい空気に満たされていた。