「ボク、ふっかーつ！！」
　再起動されて開口一番に叫（さけ）んだ天（あま）音（ね）に向けられた視線は、半分が生温かいものであったが、残り半分は緊（きん）張（ちょう）を孕（はら）んでいた。最終動作確（かく）認（にん）の最中とあって、対象と同じようには盛り上がれない。
「あー、奏（か）音（のん）ちゃん、どうっすか」
「今のところ、エラー無く動いてます」
　聖（せい）也（や）と奏（か）音（のん）が言葉を交（か）わし、頷（うなず）き合う。
「終わりっすー！」
　その宣言を皮切りに、やっと室内の空気が弛（し）緩（かん）した。長かっただの、予定よりも掛（か）かっただの、口々に好き勝手盛り上がり出す。
　パンパンと耀（かぐ）夜（や）が手を叩（たた）き、注目を集めた。
「では、今から三十分間、休（きゅう）憩（けい）だ。終わったら、社員は一（いっ）旦（たん）、通常業務に戻（もど）れ。次の会議は、二時間後にこの部屋で開始予定だからな」
　とは言うものの、本業の警（けい）備（び）業務については現在、社長宅に要人が長期滞（たい）在（ざい）しているという体（てい）裁（さい）を取って、人員を確保している。社員ではない絡（から）繰（くり）師（し）の三人、及（およ）び情報屋の風（ふう）薫（か）が、その警（けい）備（び）対象である。
　ただこの四人、集団で耀（かぐ）夜（や）社長からあまり離（はな）れずに行動しているため、普（ふ）段（だん）から社長を護衛している人員に、一人二人加えるだけで、事足りてしまう。そのため、確保された人員が通常業務として行うのは、それまでに溜（た）まっていたちょっとした書類の整理だったり、訓練だったりと、あまり大きな仕事ではなかった。
　例外があるとすれば、研究職の面々だろうか。天（あま）音（ね）が持（も）ち込（こ）んだ、未知の理論や素材の研究に、嬉（うれ）しい悲鳴を上げている。幸（こう）崎（ざき）天（あま）音（ね）博士は、その研究内容が内容であったため、せっかく新発見をしてもその大半を特許に申（しん）請（せい）することも論文にすることもなく秘してきた。天才研究者の隠（かく）された遺産を不意に入手し、しかも好きに研究しても良いと許可を得たときの彼（かれ）等（ら）の狂（きょう）喜（き）乱（らん）舞（ぶ）ぶりは、社長たる耀（かぐ）夜（や）ですら、思わず一歩距（きょ）離（り）を取ったほどであったという。
「詩（し）音（おん）は見付かったのかな？」
　電源を落としていた間の出来事は分からないため、璃（り）音（おん）に訊（たず）ねる天（あま）音（ね）。
「ああ。居場所も特定できたし、次の会議も救出のための作戦会議だ」
「それは良かった。やっと、逢（あ）わせてあげられるね」
　しみじみと言う天（あま）音（ね）を、璃（り）音（おん）は軽く小（こ）突（づ）いた。
「詩（し）音（おん）が浚（さら）われたのは天（あま）音（ね）にぃの所（せ）為（い）ではないのだから、そんな顔をするな」