『かくて月夜に騒ぎを起こす』真理亜は社長に物申す
縦横変換 詩音の救出作戦が実行に移されたのは、月が煌々と輝く夜だった。
陽動は璃音と風薫が大半を務め、奏音、聖也、天音が施設の奥まで突入する。それぞれのグループには龍神警備会社の社員が護衛としてついているが、流石に耀夜と真理亜は現地には行かず、自宅に設けた本部で事の成り行きを見守ることになった。
詩音の代替機の扱いについては、数が予想より多かったこともあり、直前まで会議を紛糾させた。風薫などは、面白そうだから現地に置いてくるべきだと強く主張し、天音も賛同していたが、一方で違法かつ非道な組織に救済措置を執るのもおかしいとのことで、最終的に大手かつ比較的善良な、つまるところ、組織と敵対していそうなサーバー提供業者にお引き取り願おうという結論に達している。
「さて、うまくいくと良いが」
耀夜が目を向けたのはモニター群、そのうち二つは微妙に映像が揺れており、じっと見詰めていると、酔いそうになるだろう。今まで奏音がハッキングしていた施設内の監視カメラの映像に加えて、璃音と奏音の視界もまた、このモニター群に転送されていた。天音の視界だけがないのは、天音が好奇心で視線を動かすことが多いためである。奏音に比べて、映像の動きが大きすぎるのだ。
「大丈夫でしょう。絡繰師が強化された今、むしろ戦力過剰かと」
真理亜は軽く言い切ると、声の調子を変えた。
「それにしても社長、良かったんですか」
「何がだ?」
真理亜の真剣な様子に、耀夜も居住まいを正した。
「報酬を頂いているとはいえ、絡繰師も詩音も、戸籍もないような浮浪者の集団です。しかも、多くの事件まで起こしている、犯罪者とも取れます。少々、肩入れしすぎてはいませんか」
何を問われるかと身構えていた耀夜は、拍子抜けしたように笑った。
「今更な話だな」
憤然とした真理亜の様子に眉尻を下げながら、言葉を続ける。
「良いんだよ。彼等は、切実に助けを求めていた。私には、彼等を助けられる力があった。別に、それだけのことじゃないか。事件だって、好きで起こしたわけでもなさそうだし、もう我々に一言もなく起こせやしないだろう」