懸（け）念（ねん）されたセキュリティシステムは、強化された絡（から）繰（くり）師（し）と璃（り）音（おん）に逢（あ）いたい詩（し）音（おん）の前では無力だった。あまりにもあっさりと破られたそれに、出番のなかった聖（せい）也（や）は生気の抜（ぬ）けた目をしている。
「そりゃ、そうなるっすね。うちの大（たい）概（がい）なセキュリティシステムも秒殺してましたもんね。そんな相手が強化されりゃ、人間にはどうにもできないっすよ。ねえ俺（おれ）、ついてきた意味ありました？」
「備えあれば憂（うれ）いなしって言うじゃん！　帰りにも何か起こるかもしれないし」
　普（ふ）段（だん）であれば大いにからかう天（あま）音（ね）ですら、思わず慰（なぐさ）めてしまうほどの塞（ふさ）ぎ込（こ）みっぷりである。
「このまま何事もなく帰れたら良いのですけれど」
　奏（か）音（のん）が天（あま）音（ね）に同意し、医（い）療（りょう）用（よう）培（ばい）養（よう）槽（そう）を覗（のぞ）き込（こ）んだ。
「難しそうですね。ここから詩（し）音（おん）を出すには、時間が掛（か）かりそうです。まだ、これごと持って行った方が早いと思います」
　嘆（たん）息（そく）する奏（か）音（のん）の判断を受け、即（そく）座（ざ）に、本来なら備え付けられているはずの非常用バッテリーを確（かく）認（にん）する天（あま）音（ね）と聖（せい）也（や）。切（き）り替（か）えの早さは当然のこと、何しろここは、敵地のド真ん中なのだから。
　違（い）法（ほう）改造された医（い）療（りょう）用（よう）培（ばい）養（よう）槽（そう）であったが、幸（さいわ）いなことに緊（きん）急（きゅう）避（ひ）難（なん）用の備品は一通り揃（そろ）えられているようであった。一通りどころか、小旅行に出られるくらいの予備バッテリーが積まれていたり、外付けの車輪が既（すで）に取り付けられていたりと、もしかしたら組織は近々拠（きょ）点（てん）を移すつもりであったのかもしれない。
「渡（わた）りに船と言うべきか、間（かん）一（いっ）髪（ぱつ）と言うべきか」
　警報装置が作動しないよう、念を入れながらも、奏（か）音（のん）は呟（つぶや）かずにはいられない。
「何だって良いじゃん、ちゃっちゃと出発だ！」
　天（あま）音（ね）の言うことも尤（もっと）もなので、奏（か）音（のん）は詩（し）音（おん）に、出発することを告げる。医（い）療（りょう）用（よう）培（ばい）養（よう）槽（そう）の中の詩（し）音（おん）はピクリとも動かなかったが、この瞬（しゅん）間（かん）、ザイオンサーバーは全ての業務を代（だい）替（たい）機（き）に引（ひ）き継（つ）ぎ、活動を停止した。
　一連の動作を確（かく）認（にん）した奏（か）音（のん）と天（あま）音（ね）が頷（うなず）き、聖（せい）也（や）が護衛に指示を出す。救出劇もいよいよ大（おお）詰（づ）め、脱（だっ）出（しゅつ）して帰（き）還（かん）するまでが作戦なのだ。