研究動機

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 まあ、こうなることは、予想の範疇はんちゅう内ではあった。あったんだけど、やっぱり、思わず、ため息が出てしまった。
「これじゃあぼく、若返るしかないな。骨格なんて、璃音りおんとどっこいどっこいのしか作れそうにないや」
 何の話かというと、材料の話である。搬出はんしゅつしか許されない状況、元助手たちによる火事場泥棒どろぼうも絶えず、物資というか材料が足らない。結構、足らない。
 でも、骨格が璃音りおんと同等の大きさにしかならないというのは、裏を返せば堂々と璃音りおんに合わせられるということもであり。璃音りおんの横に立つ、同い年くらいの自分を想像したら、ちょっとにまにましてきた。
 璃音りおんとおそろい。うわぁ、うれしい。
 だって、ぼくの本来の研究動機は、『ぼくと遊んでくれる友だちがしい』だった。それが、生身の相手のいないまま人形遊びになり、より自然に動く人形を作ろうとしていたのを組織に見出みいだされての、今である。
 そう、ぼくだれかに相手してしかった。でも、現実ではだれも相手してくれなくて、ふと思い立ってしまったんだ。無いものは、創ってしまえば良いじゃない。
 だれも相手をしてくれなかったからこそ、この狂気きょうきじみた研究もまた、最後までだれにも止められることがなかった。
 ぼくに声をけてきた今の組織は、別にぼくの相手をしてくれていたわけじゃなくて、単に人間を強化した存在がしかっただけみたいだから、つまるところ、おたがいにおたがいを利用し合っていた関係かなと思う。でも一方で、組織が余計な知恵ぢえをしなければ、ぼくは独自に、人間を使わない絡繰からくり人形を完成させていたかもしれないとも、今なら思う。
 どこで決定的にくるってしまったのか、今更いまさら後悔こうかいしても仕方ない。それに、組織は璃音りおんを連れてきてくれたからね。
 そんな訳で、なんとなく回想してみたりなんかしているけれど、実は、にまにました直後くらいから身体からだいそがしく図面を引いているし、思考の大半も、きちんと図面の開発にいていたりする。
 いつかだれかが言っていた。そんなこと、普通ふつうはできない。さすがは、天才マッドサイエンティスト、だと。当時は、そのひびきにひそ隔絶かくぜつ感がつらくて、余計に研究にのめりんだりもしたのだけれど。
 璃音りおんが近くに寄ってきた。ぼくの手元をのぞんで、首をかしげている。
「……小さいな?」
「材料不足だからね。ふふ、でも、璃音りおんとおそろいだよ」
 璃音りおんは、ぼくが何かをしながらでも別の考え事ができることを、すごいと言った。そして、こう続けた。じゃあ、アマネにぃは、お仕事しながらでもリオンとお話ししてくれるんだ。
 出会ってまもなくのころの話だから、璃音りおん本人は覚えていないかもしれない。でも、ぼくは、忘れない。だって、そう言ってくれたのは、璃音りおんが最初だったから。