転換点
縦横変換 曰く、素直じゃないのも大概にしろだとか。曰く、肝心なときに大人ぶるのは、最低だとか。
結構グサグサと遠慮なく僕の心を滅多刺しにしてきた璃音が、それでもようやく落ち着きを見せ始めた、と思いきや。
「天音にぃがいなくなったら、誰が、自分の面倒を見てくれるんだ? これ以上、天音にぃ以外の他人なんかに身体をいじくり回されたくない」
傷口に、特大の、爆弾を放り込んできた。
いやいやいやいや、きっとメンテナンスのことだと思う。というか、そうでなくては困る。
いやぁ、しかし、困った。言われて想像してみたら、確かにものすごく、嫌だ。
僕の堕天使を、僕以外の誰かが好き勝手するなんて、許せない。
「璃音は素直だもんなぁ」
思わず、毒気を抜かれて素で笑ってしまう程度には。
「本当に、僕も璃音みたいだったら……」
璃音みたいだったら?
……璃音みたいに、人間ではなかったら?
「そっか。その手が……」
だって、今更自分の人間としての命に、未練はなかったのだし。無理に生き延びなくても良い、の範囲が、少しズレるだけだし。
となると、その手段を検討するに当たっての、問題点は。
「ああ……時間がないか。人手も、見込めないしな」
うーん、なかなかに名案だと思ったんだけどなぁ?
「天音にぃ? 何か思いついたのか?」
「うーん、ちょっと、ね。ま、どうせ一人じゃ無理っぽい感じだから……」
「なら自分が手伝う!」
はっと我に返った。璃音。
詳しいことは何一つ聞いていないのに、無条件で手伝うって言ってくれる、僕の大切な堕天使。素直で甘くて、だからこそ。
「璃音には、辛いと思うよ」
「天音にぃがいなくなるよりマシだ」
「僕は、いなくなるよ」
否定の意味を込めて首を横に振ったら、璃音がまた泣きそうだ。
「僕という、人間はね。最期の『作品』を作ろうか」
大きく見開かれた堕天使の瞳から、一粒だけ涙が零れ落ちた。
璃音は賢いから、悟っただろう。この言葉の意味を。
僕の『作品』には、常に生贄が必要だった。何せ、僕の研究内容は、人間を絡繰人形にしてしまうものなのだから。