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第八章 二回目の、終わりの覚悟

 軋む外殻がひび割れ、蜂の羽音がほとんど消えた。
 蔦の締め付けをさらに強め——その瞬間だった。

「……ルークス?」

 空気の震えが、ないはずの心臓を鷲掴みにした。
 ディラオーネの……養い親の声。かつて幾度も呼ばれたその響きが、また俺を呼ぶ日が、来るなんて。

 蔦の力が、わずかに緩んだ。その隙を、蜂は逃さなかった。
 鋭い毒針が、傷口めがけて突き立つ。

 痺れが一気に広がる。根の奥まで黒い炎が這い上がり、体の感覚が削がれていく。
 もう一度、空気が震えた。それを音として処理する余力は残っていなかった。

 それでも——
 ここでこの蔦を離せば、この蜂は俺を倒して、ディラオーネや小動物たちを襲う。
 俺は残った力を全て込め、蔦を再び締め上げた。

 骨の軋むような音とともに、蜂の羽からの振動が途絶える。
 毒針が抜け落ち、俺の根元に転がった。
 ついに決着がついた。人攫い蜂が動く気配はない。

 ……俺も、もう、もたないな。
 地を這うように広がる蔦が、自分の意思とは無関係にほどけていく。

 ——ほら、いい加減に逃げろって……
 俺という庇護者を喪い、やっと小動物たちが崩落に巻き込まれまいと、逃げ出す。
 守り切れた。俺は、最期まで、やりきったんだ。

 一つだけ、離れるどころか、駆け寄ってくる振動。
 そっと触れる温もりが、無性に懐かしく感じる。ずっとずっと昔、俺の手を握ってくれたディラオーネを思い出すようで。

 名前を呼ばれた。俺だと、気付いてくれた。
 知られてしまった。そしてまた、置いて逝ってしまう。
 複雑な思考はもう難しく、意識も、森の香りも、暗闇に沈んでいった。

 今度こそ、終わりか——そう思いながら。