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幕間一(常葉誠視点)

「おい誠、またヘンテコな治験だな?」
 治験の最高責任者である教授が去った小会議室。久々に会う旧友はこれっぽっちも遠慮がなかった。
「悪かったね、ヘンテコで。そして巻き込んで」
「えっ」
 旧友が——理学療法士でリハビリができて、義肢装具士の資格も持っている稀有な人材の守が、息を呑んだ。今の発言で、この治験が僕からの発案っぽいことを察したらしい。相変わらず、頭の回転が良い。
「別に断ってくれても良い、よ。でも、僕としては守に来てくれた方が心強い」
「おいおい……お前取り敢えず詳細聞かせろ。教授もお前に聞けって言ってたし」
 確かに、守を招聘するのに教授の力を借りたけれど、一番この治験に詳しいのは、僕だ。
 元々は脳波読み取り装置の改善とそれによるコミュケーション機能の補助で会話のできない患者さんのQOL(生活・人生の質)を上げ、予後にどれだけ影響するかをみるための治験であったこと。装置をつけるとモニター出力よりも周囲の植物の方が反応が良いと見つけたこと。だから——
「植物でさ、身体を動かす装具を作ったら——動けるように、ならないかなって」
 僕の荒唐無稽な案を聞いた守は、眉間に皺を寄せた。
「まあ、確かに面白い。面白いけど、前代未聞じゃね? しかもお前からの発想」
「ギプスとかよりも通気性が良さそうで、もし本人で細かく調整できそうなら機械の装具を何回も作り直すよりコスパ良さそうだよね」
「って言って、周りを丸め込んだな?」
 にっこり笑うだけにしておく。守は呆れ顔だけど、多分それを指摘したら色々白状させられる。
 昔から、僕は守に弱かった。彼は僕の内側にわざわざやってこようとする変人で、僕自身でもまだ言葉にしにくいことまで聞き出そうとしてくるから。でもだからこそ、彼なら神代さんにも真摯に対応してくれるだろうって思ったんだ。
「……うん、良いぜ。面白そうだから、その提案乗ってやろうじゃないの」
「ありがとう、ね」
 お礼を言うのは普通のことだと思うのに、守がまた固まった。そして、眉間の皺を揉みほぐしている。
「そりゃ、こんな面白そうなことに本気で取り組めるの、オレくらいしかいなさそうだし?」
 何か含みがありそうだけれど、僕はその辺りを判断するのが本当に苦手で、だから黙って笑っておく。
「で、オレは治験にかこつけて、お前のお気に入りにしっかりリハビリしてやって、ちゃんと動かせる装具を作れば良いんだよな」
「それは聞き捨てならないかな、守。贔屓は良くないことだから」
「おい誠、お前……」
 守の目が一気に澱んだ。でも、数秒で、何かの火が着いたようだった。
「分かったっすよ、常葉先生」
 仕事のスイッチが入ったのかな? なら僕も、それに応えなきゃ。
「よろしくお願いしますね、徳永先生」


【徳永守の日記】

 有名国立大学の附属病院から、あんなお堅い病院にしては珍しい『植物製の装具』の治験なんて案件が来たから何事かと思って話を聞きに行ったら、高校時代の同級生、誠がいた。そう言えば、そこに合格してたな。そのまま入職したってパターンか。
 待遇も悪くなさそうだったし、色々面白そうだと思って、請けることにした。あの引っ込み思案だった誠が、自分でも荒唐無稽と認めながら、突飛な発想の治験を提案して、オレを喚んだ。誰か、治験参加者の中に、誠の琴線に触れたやつがいるんだ。
 しかし本人に自覚がないのがまた何というか、らしいと言えばらしいけど、心配だ。
 ま、実際どうなのか、参加してみれば見えてくるものもあるだろう。他の仕事は、少し整理しておこう。