検討する先生(神代望視点)
その日、常葉先生の足音が、少し不規則だった。扉をノックするのにも、少しだけだけど、間があって。
だから心配したのに、理由が荷物の持ち込みで、しかも持ち込んできたのが、植物。
『ねつく』
「ちっ、違いますよ?」
分かってる、ただちょっと心配した気持ちを返せと思っただけ。先生が思ったより狼狽えたのが可笑しくて、瞬きの回数が増えた。
「いやね、神代さんと話してて気付いたんですけどね、この装置、もしかして植物にとても効くんじゃないかって仮説が立ちまして」
『何 の はなし』
「それを見せるために、これを持って来たんですよ。神代さんと話していると、窓の外ですっごく木の枝が伸びたり揺れたりするんですけど、呼吸器ごとベッドの向きを変えるよりもこっちを持ち込む方が早そうでしたので」
そして先生が見せて来たのは何かの蔓植物だった。ちょうど伸びかけの蔓もある。でも、本当に?
『嘘 だあ』
そんな俺の気持ちに反して、入力したその瞬間、蔓がクイっと先生の方を向いた。
——えっ?
そして、今度は入力するまでもなく、蔓がピンと弾かれたかのように動く。
本当に? 反応してる?
「やっぱり反応していますね」
先生も真面目な顔でその植物を観察している。いや、でもそんな植物よりも——
自分のその気持ちに動揺したところで、先生の目がこちらを向いた。
「神代さん?」
良かった。俺が瞬きくらいしかできなくて、本当に良かった!
そんな俺の気持ちもまた伝わらず、先生は植物に目を戻す。
「これ、上手く制御できるのなら、五十音表とかに使えそうですね……」
それはまあ、確かに。と、いうことは——
『治験 ふえる ?』
「増やしても良いですけれど……」
『やる』
我ながらだいぶ食い気味の返事だったと思う。脳波読み取り装置も徐々に改善してきて、ちらほら単語も拾ってくれるようになったし、一文字の入力も三秒くらいまで短縮された。ここで今更五十音表に戻る意味も、多分ない。ないのだけれど。
治験することが増えたら、先生がもっとここに来てくれる、いてくれる。
呑気にそんなことを考えていた俺は、まさか先生がその裏でもっと大胆な何事かを計画し始めていたなんて、これっぽっちも気付いていなかった。
「神代さん」
先生の真剣な目が俺を捉える。柔らかい声はいつもよりゆっくりと、はっきりと。何かを伝えたくて。
聞こえている。だから、瞬きを一つ。
「増やしましょうか、治験でやること。代わりに、もっと神代さんも何かを得られるように、僕も考えてみますから」
普段から丁寧にことを進める先生だけど、今回は更に慎重だ。眼鏡の奥の目元も、少し力が入ってそうで。でも——
くどい。そんな気持ちで、瞬きを一つ。先生の目元から、ふっと緊張が消えた。
「わかりました」
先生が、更に目尻を下げる。
「精一杯、できること、考えますね」