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正直な先生(神代望視点)

 徳永先生、スパルタじゃね? と、今日もヘトヘトになりながら、思った。
 いや、でもありがたい。多分俺の限界ギリギリを見極めてる。決して翌日まで持ち越すような無理はさせてこないから、効率がとても良い。しかもリハビリだけでなく、義肢装具士としても多分ヤバいんだと思う。だって、普通、いきなり植物(しかも、生きてるやつ)で装具を作れって無茶振りされて、はいそうですかって作れるわけがない。
 手足に沿うようなパーツ、体幹を支えるパーツ、頭を動かすパーツ。全部、身体に負担なく——痛みなく装着できるようになってる。着けてるだけなら、違和感すらもない。変な動かし方をしたらそりゃ駄目だけど、それは動かしてる俺の未熟さの結果であって。
「んじゃ、ラストの往復行くっすよー。それで朝の分は終わりっす」
 すごいことに、今の俺は、ゆっくりとなら身体を数メートルほど、歩かせることができるようになっていた。焦ると無理だけれど、慎重にやれば。
 ヘトヘト、というのはこれまで寝たきりで筋力の落ちまくった身体もそうだけれど、むしろ頭が——集中しすぎるのが。
「はい、よく頑張ったっすね」
『徳永先生 の おかげ』
「いやいや、神代さんの頑張りっすよ? やる気がない人にどれだけリハビリやったって、効果ないっす」
 徳永先生も、かなりズバズバとした物言いをする人だなと思う。常葉先生よりも、ある意味「正直」かもしれない。だから安心できる。この人たちなら、変な気休めは、口にしない。
 ベッドに戻って呼吸器が激しく動くのを聞いていたら、聞き慣れた足音と、ノック。
「神代さん、入りますね」
「常葉先生、ちょーっと遅かったっすね。リハビリ終わったっす」
「すみません、外来が押してしまいまして……」
 そして視界に、常葉先生がやってくる。外殻、と命名された装具類を着けるのは、リハビリの間だけだから。こうして常葉先生から来てくれないと、見られないんだ。
 徳永先生が常葉先生に今のリハビリのことを報告している。常葉先生はそれに頷きながら、合間に俺をチラチラと見てくる。俺がそれに瞬きで肯定を返したら、ホッとしたように目尻を下げるんだ。徳永先生が報告して、俺がそれを肯定して、こうして三人でいる間だけは。
 他に一人でも誰かがいると、常葉先生の空気が薄くなる。他のどんなスタッフでも、常葉先生の目尻を動かすことはできない。いつも穏やかで、丁寧で、静かで、そして——存在感が、希薄だ。徳永先生とそれ以外のスタッフでは、明確な区別がある。
 そして自惚れじゃなかったら、俺もまた、徳永先生の側なんじゃないかって、最近思うようになった。俺とやり取りしている時に、常葉先生の目尻、よく下がってる。で、誰か来たら、常葉先生から温度感が消えるんだ。だから。
 でも、実際どうなんだろう。常葉先生、他の患者さんにも、同じように優しくしているのかな。最初から、丁寧な人だったし。
 聞いてみたい気持ちと、聞きたくない気持ちと。幸か不幸か、まだ脳波読み取りの装置で長文は出力できないから、そもそも聞けないわけだけれど。
「神代さん、すごく頑張っているんですね」
 報告を最後まで聞いた常葉先生が、穏やかな声で褒めてくれる。俺は、まだ消していなかったモニターの文字に視線を落とした。
『徳永先生 の おかげ』
「いえいえ、それもあるかもしれませんけど、神代さんの頑張りです。結局僕たちがどれだけ必死に頑張っても、本人の気持ちがなければ、どうにもできません」
 徳永先生と、ほぼ同じことを言っている。
 でもね、先生たち。気持ちだけではどうにもならないことだって、あるだろう?
 俺は、俺のこの身体は。俺の気持ちだけでは——