彼女の師匠は驚愕する
「……で、結局マジに酒を飲みに来たわけか?」
思わずそう唸ってしまった俺だが、きっと周りも同じ気持ちだと思う。
我等が指揮官殿が、割り当てられた天幕以外で食事を摂ろうと言い出す……しかも、酒を出せと命令するなど、明日はきっと魔法が大暴発だ。
そりゃあ、な?
知っていたというか、聞いてはいたさ。指揮官殿と全く同じ名前を持つバカ弟子から、色々とな。
だが、これはいくらなんでも予想外だ。
「酌み交わせるだろうと、言ったからな。元々、奢る約束もあった」
思わず出た俺のタメ口に無礼だと怒ることもなく、いっそ朗らかに宣ってくれるものだから、今度こそ周りが悲鳴を上げた。
おいおいおいおい。
カノンよ、バカ弟子よ。一体全体、どうやってこの堅物を丸め込んだよ⁉︎ 今まで、こんなに穏やかな顔を見せたこともなければ、奢るなんて絶対言ってこなかっただろう、このエルフ様は!
眉間に皺を寄せて、狎れ合いを避けていた筈の指揮官殿は何処へ行った?
「さて、カノン。どれがオススメだ?」
「んー、そうだねぇ。アタイとしては、景気付けに一杯、喉越しの良いエールなんかを掻っ込みたいところだけど、アンタにはもっとお上品な酒が合う気がするんだよねぇ」
おうふ。
空気が、違う。甘過ぎて、胸がムカムカしてきた。
本当に、この一日で何が起こった。
つまりは、アレか。バカ弟子は、堅物を射止めてしまったのか。
……マジで?
バカ弟子は嬉しそうに尻尾を……
って、おい。
これは、俺の目の錯覚か? バカ弟子の尻尾、増えてないか。
これは何としても、コトの顛末を吐かせないといけねーようだな。