いきなり倒れるなんて、思わなかった

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 どれだけ呆然ぼうぜんとしていただろう。風にヒゲがそよいで、水のにおいに思考が戻ってきた。
 そういえば、あれだけ飢餓感きがかんすさまじかったのに、口渇感こうかつかんはなかったんだよな。しかも、今は何を食べたわけでもないのに、なんとなく空腹だ、程度まで治まっている。
 のどかわいていないけれど、近くに水辺があるなら、自分の姿を映して見るくらいできないだろうか。
 改めて周りを見ると、目に痛いのは空の色ではなくて、どうやら空気の色のようだった。背の高い緑色の草に囲まれている、のはかろうじて分かったが、その先は、やっぱり玉虫色のモヤにおおわれて不透明だ。
 これは前途多難ぜんとたなんだなぁと思って目をらしていると、オレの周りだけ、どんどんモヤの色が薄れているような気がした。うーん、モヤが薄れても、不透明だと前が見えにくいことに変わりはないんだけど……。
(それもそうだね)
 ふと、誰かの声が聞こえた気がした。振り返ろうとしたその瞬間、一気に体から力が抜けて、とてつもなく腹が減った。
 なすすべもなく、ベチャッと地べたにいつくばる。ぼやける視界、漂ってくる半透明になった玉虫色のモヤ。
 ああ、おなかが、ぺこぺこだ。
 あまりの情けなさに、涙まで出てきそうだ。頭が回らなくなって、人間としての意識が薄れて……
 やっとオレは、自分が何をったのかを感じ取った。