『想食種』

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「……し、白くなったな?」
 週末になって聖域にやってきたリオニス君は、僕の真っ白な髪を見て、びっくりした。
「うん、ジンさんとおそろい」
「おそろい?」
「大丈夫だよ。食べちゃダメなものは、ちゃんと教えてもらってるから」
 流石、優等生のリオニス君。僕の言いたいことを察して、顔色を変えた。
「ジンとおそろい、というのは、食事もか」
 笑顔で肯定すると、リオニス君の眉間みけんしわが寄った。
「そこまで、お前の体質は厄介やっかいだったのか」
 その通りだけれど、答えなくても伝わるだろう。
「ミュー……ミュウミュ(こっちにいたのかルーエ……あ、リオニスも来てる)」
 うわさをすれば、ジンさんがやってきた。人間の姿を取り戻せたはずのジンさんだけど、彼本来の姿とはやっぱり大幅に違ってずかしいとのことで、普段は変わらず獣の姿で活動している。僕は綺麗きれいだと思うんだけどなぁ。でもまあ、カッコいいというより綺麗きれいだから、微妙な気持ちになるのかもしれない。
「ジン、彼に何をした」
 リオニス君が、真剣な表情でジンさんをつまみ上げた。ジンさんは悪くないのに、大人しく捕まっている。
「リオニス君、ジンさんを怒らないで。僕がこの道を選んだんだから。ていうか、ジンさんも立派な被害者だったし」
「ミュ!(余計なことまで言うな!)」
 ジンさんは咄嗟とっさに鳴いたけれど、残念、リオニス君は聞きのがしてくれないタイプ。
「被害者? 実験台だとは聞いていたが」
「異世界とやらから拉致らちされて、人間としての姿もうばわれちゃった被害者だよ」
 リオニス君は、手の中のジンさんを凝視ぎょうしした。
「なるほど、それである程度、社会のことを知っていたのか」
 ジンさんはねた様子でそっぽを向いた。その動きも可愛くて、僕は内心もだえる。
「でね、今は神様の実験も次の段階に進んでて、もう少ししたら、僕もジンさんも、聖域から離れられるかもしれないんだ」
 リオニス君が、目をまたたかせる。
「聖域にジンさんと同じ能力の誰かがいれば、ジンさんも出掛けられる、でしょ? だからね、今は候補者たちの選定中」
「ミュウ……(別にオレは無理に出掛けたくなんて……)」
 耳をペタンと伏せながらつぶやくジンさんは本当に可愛いけれど、彼こそ世捨て人になってしまってはいないだろうか。自分の生涯しょうがいを悲観して、狭い世界に閉じこもろうとしている気がしてならないんだ。
「候補者たち……というのは、余剰魔力よじょうまりょくを浄化する仲間候補か」
「そうそう。浄化って言うとカッコいいよね。食べてるだけなんだけど」
 余剰魔力よじょうまりょくからエネルギーをいただき魔素に還元かんげんする僕たちのような存在が、今後増えるとして、何かイイ感じの名称があれば楽しいよね、きっと。
 魔食……いや、魔素に乗った思念のエネルギーを食べるのであれば。
想食種そうしょくしゅ……とか、良くない?」
 僕の唐突な提案に、リオニス君とジンさんは同時に首を傾げ、顔を見合わせた。