その後の話

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「相変わらず、ここの空気は綺麗きれいだな」
 聖域に転移魔法でやってきたリオニス君は、いつものように深呼吸をして、こう言った。
 あれからもう十年以上。彼は学校を卒業すると、再び何でも屋ギルドに登録した。以前も二つ名をもらうほどに優秀だったこと、性格が丸くなったことから最年少でギルドのまとめ役の一人に推薦すいせんされていたのが、数年前。会議などでとてもいそがしくなっているはずなのに、ちょこちょこと聖域に顔を出してくる。
 実は僕も、リオニス君に誘われて何でも屋ギルドの手伝いをしていたことがあるのだけれど、うっかり登録証の魔力を食べてしまったんだよね。まあ、どうしても何か、手伝いが必要なときは、リオニス君が相談に来るので、それで良いかなとか思ってる。
「今日はルーエが聖域の当番か。ジンは……また図書館、か?」
「だと思うよ。本当、ジンさんって本を読むのが好きだよね」
 普段は小動物の姿なのに本を読むときだけ人間の姿をとるものだから、一時期、色んな図書館に幽霊が出ると騒ぎになっていた。ジンさんから、文字をおぼえたいと頼まれ、リオニス君と二人で教えたのも、懐かしい思い出の一つだ。
 因みに聖域の当番、というのは、僕たち想食種そうしょくしゅ古株ふるかぶが持ち回りで聖域に滞在、訪れる魔物たちの浄化を行う当番のことを言う。想食種そうしょくしゅ随分ずいぶんと数を増やしてきたから、リオニス君が寿命をむかえるまでにはこの当番は無くなるんじゃないかなって思う。
 リオニス君が寿命をむかえても、ジンさんと僕はもうしばらく生きているだろう。ジンさんの体が成長していないことに気付いて、創造神と交渉したこともあった。あの御方は文字通り神出鬼没しんしゅつきぼつだから、まず話し合いの舞台に立つまでに苦労するのだけれど、全く話が通じない方でもないから、その点は気楽ではある。ジンさんがずっと独りで取り残されるのか、と詰め寄ったせいで僕まで同じくらい寿命を引き伸ばされてしまったのが、ちょっぴり想定外だったくらいで。
 不幸中の幸いは、それが学校を卒業した後のことで、だから何とか中退はせずに済んだわけだけれど。事を知った妹を泣かせてしまったことは、少し後悔している。
 そんな僕の職業は、国が抱える魔法研究所の所長だ。肩書きだけは立派だけれど、実質ただのおかざり。そりゃ、研究成果は色々発表しているさ。歴史に残せるような大発表に届いていないのに所長とか、他の研究員がやりたがらない雑用をまとめて任されているとしか思えないんだけどね……。
「いや、ルーエの場合は存在そのものが貴重だからじゃないか?」
「あれ? 僕、また思ったことを垂れ流してた?」
 リオニス君には、僕の思考がれてしまうことがあるんだよね。ジンさんのダダれほどはひどくないんだけど、気を抜きすぎると、たまに。
 それは、リオニス君の仕事を手伝う中で、彼の魔物化を防ごうとして交わした、とある契約の影響でもある。
 想食種そうしょくしゅが、己の気に入った相手の魔物化を防ぐ為に、その相手の魔力を優先して食べる契約。色々と、副次的な作用も発生しているみたいなので、何か良い名前をつけて研究したいなと思っているよ。
「あー、早いこと、僕たちの存在がもっと一般的になれば良いねぇ」
 そうすればきっと、魔物の発生も減るし、他の人から変な目で見られなくなるのだから。