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第十二章 監視の赤点(灯香)

 スマホの画面は真っ暗なまま、沈黙を返していた。
 通話を切ったのは自分なのか、詩織なのか。もう思い出せない。
 ただ、胸の奥に残ったのは、荒く掻きむしられたような痛みだった。

 ——拒絶された。
 でも、まだ諦めてはいない。
 彼女の声の震えは、まだ隣にいたいと叫んでいたから。

 深夜の街を歩く。ビルの壁に取り付けられた監視カメラの赤い点が、やけに視界に残る。
 信号待ちの最中にも、背中に熱を帯びた視線が突き刺さるように感じる。
 ——いや、感じるんじゃない。事実、狙われている。

 郵便受けには、白い封筒が差し込まれていた。
 差出人も、挨拶文もない。中に入っていたのは、一枚の名刺だけ。
 肩書は「対策室」。名前は、ない。

 笑ってしまった。
「脅すつもり? 遅いんだよ」
 声は小さく漏れただけなのに、夜の路地裏に乾いた響きを残した。

 翌日、帰宅して鍵を開けたら、玄関の内側で黒いスーツ姿の男が待っていた。
「調べすぎたようですね。あの件のログは、もう残っていなかったはずですが」
 低い声が、冷気みたいに耳に触れた。

「へえ。じゃあ、消される前に正解に辿り着いたってことか」
 あたしは睨み返し、肩をすくめてみせる。
「どうせ口封じするんだろ? だったら——詩織の腕の中で、花を吐きたいね」

 言った瞬間、スーツの男の表情がわずかに揺れた。彼はイヤカフ型の通信機に触れ、誰かに確認を取ったようだった。
 
「……良いでしょう。しかし、また酔狂な」
 
 怯えたのか、呆れたのか、判断もつかない。
 でもいい。どう受け取られようと構わない。
 ——あたしの願いは、ただひとつ。

 車に押し込まれた。
 窓の外は真っ黒で、街灯の光すら届かない。
 錠のかかったドアに体を預けながら、笑みがこぼれる。

 ようやく、だ。
 ようやく詩織の隣に辿り着ける。
 たとえ二度と出られぬ隔離病棟だったとしても、詩織さえ隣にいれば、それだけであたしは——。