『かくて騒ぎが持ち上がる』火付けと火消し
縦横変換 絡繰師随一の問題児、騒動の火付け人、その名は天音。ひとたび表舞台に姿を現せば、それは天災の合図だと、世間は言う。
たった一人で巻き起こす破壊の数々。しかし、その派手な所業にもかかわらず、かの存在の姿を捉えた映像は滅多に世に出回らない。何故なら、撮影された写真や動画の大半が、即座に再生エラーを起こすからだ。
「警告出して、被害状況更新して、ああもう、また撮影されてますね!?」
火消しに回る奏音の方は、たまったものではない。各種電脳掲示板やソーシャルネットサービスに、或いは匿名で、又はアンジェの通り名で、もしくは多数抱える捨てアカで、更には他人の捨てアカまで乗っ取って、とにかく、破壊テロの警告を投げ込み、報道サイトにおける被害状況をひっそり書き換え、撮影された天音のデータにバグを仕込み、自身は騒動の大元へと走り続ける。
たとえ天音のやっていることが、目的の薄い通り魔でも、規模が大きければ破壊テロの名前にした方が周囲の反応が良い。いっそのこと爆弾でも使われていれば、爆破テロと書けるのに、そこは普段の予防が功を奏したのか、事前準備の必要な、大型爆弾などは今のところは使用されそうにない。
いくら奏音が人外レベルで優秀なハッカーであったといえども、流石に天音を止めるには、今の距離は遠すぎた。思考と感覚をハッキングして、読み取るまでが、精一杯で。
奏音の走る速度が、落ちた。目的地に近付いたというのもあるが、周りに人間が増えてきたのだ。
奏音は人間が苦手である。かつて人間に道具として使われ、廃棄され、処分まで受けた身とあっては、無理のないことかもしれないが。
処分されるまでは、奏音も人間であった。今は、天音や璃音と同じ側だ。
絡繰子。絡繰師の裏に隠された、もう一つの都市伝説を知る者は少ない。