『かくて奏音は拒絶する』恐ろしい妄想
縦横変換 奏音の本音からすれば、なるべく、動きたくはなかった。身体のあちらこちらに負ったダメージは大きく、動かす度にエラーを伝えてくる。
後から天音と璃音に回収してもらおうと、休眠状態に入ろうとしたその矢先、人間たちに掘り起こされてしまった。
休眠状態に入れば、マネキン人形なり、死体なりに見えるだろうか。そして、願わくばそのまま、どこかに廃棄してくれれば良い。
そんな奏音の願いも空しく、誰かが両肩を、強い力で叩いてくる。揺さぶってこないあたり、正しい医療知識を持っている者の動きだ。直前に、有楽部という不穏な単語も聞こえていたため、奏音は渋々周囲を確認することにした。
有楽部家に、確認を取られては困る。奏音は、有楽部一族からすれば廃棄・処分したはずの、つまりは、もう存在しないはずの存在だからだ。
しかし、目を開けたことを、奏音は直ぐに後悔することとなった。まさかの、龍神警備会社の、しかも社長御自らに介抱されていたとは、思いもしなかった。
……いや、ある意味、目を開けて正解だったかも知れない。龍神警備会社は、後始末もきっちりとする、優良な会社だ。もしも目を開けずに、身元不明の死体と判断された場合、最悪、埋葬されていた可能性もある。
「大丈夫か!」
耀夜が、奏音に確認する。奏音は耀夜を見上げ、この場合はどう返事すれば無難なのだろうと、考え込んだ。
身体的には問題だらけで、全く大丈夫ではない。状況だって、とても大丈夫とは言えない。けれども、人間用の医療機関に運ばれても、そこでは奏音を治療することはできない。
それどころか、一般的な人間から見れば、オーバーテクノロジーになる自分は、実験対象になって分解される可能性も。そこまで考えて、奏音は真っ青になった。
結論。何が何でも逃げ出さねばならない。人間に捕まったら、奏音に未来はない。