白（はっ）華（か）の提示したアンジェという名には、皆（みな）それぞれに聞き覚えがあった。
「もしかして、破（は）壊（かい）テロの書（か）き込（こ）みをしたか？」
　代表して耀（かぐ）夜（や）が訊（たず）ねると、白（はっ）華（か）は渋（しぶ）々（しぶ）と頷（うなず）く。
「否定は、いたしません」
「そうか。直（す）ぐに駆（か）け付（つ）けられなくて、済まなかったな」
「いいえ。私の方こそ、もっと早くに察知できていれば」
　その返しに耀（かぐ）夜（や）は目を見張ったし、記録に集中しているふりをして静観を保っていた聖（せい）也（や）が思わず口を挟（はさ）んだ。
「えっ、察知っすか！？」
　反応の方に面食らった白（はっ）華（か）は口をつぐみ、俯（うつむ）く。それを幸（さいわ）いに、耀（かぐ）夜（や）は聖（せい）也（や）を振（ふ）り返（かえ）った。聖（せい）也（や）の表情が真（しん）剣（けん）なことを確（かく）認（にん）し、再度白（はっ）華（か）に問（と）い掛（か）ける。
「大事なことだから、確（かく）認（にん）させてくれ。白（はっ）華（か）は、破（は）壊（かい）テロを察知して、警告を書（か）き込（こ）んだのか？」
　沈（ちん）黙（もく）する白（はっ）華（か）の視線が、非常に忙（せわ）しなく揺（ゆ）れる。伝えても問題なさそうな情報、伝えられない情報を取（しゅ）捨（しゃ）選（せん）択（たく）し、真実と虚（きょ）構（こう）を織り交ぜて、答えた内容は。
「然（しか）るべき方法で、然（しか）るべき場所にアクセスすれば、幾（いく）つかの破（は）壊（かい）テロの情報を、得ることができるのです。未然に防げるものもありますし、既（すで）に起こってしまっている場合もありますけれど」
「そんな場所あるっすか」
　唸（うな）る聖（せい）也（や）に、白（はっ）華（か）は非常に申し訳なさそうに告げる。
「証明はしませんが」
「まあ、そうっすよね。大事な飯の種でしょ、それ」
　白（はっ）華（か）は曖（あい）昧（まい）に笑い、答えない。確かにそれ、天（あま）音（ね）の思考プログラムの監（かん）視（し）、及（およ）びメンテナンスは白（はっ）華（か）にとって大切な存在意義の一つであるが、職業かと問われると微（び）妙（みょう）な気もした。
「となると、白（はっ）華（か）は凄（すご）腕（うで）のハッカーということになるのか？」
「どうなんでしょうか？　他の方を存じ上げませんので」
「いや、そんな謙（けん）遜（そん）されても困るっす。このお嬢（じょう）ちゃんは大（たい）概（がい）っすよ、社長さん。うちのセキュリティシステムに、サクッと侵（しん）入（にゅう）できるレベルのハッカーなんて、そうそういませんって」
　多方面に良くも悪くも名が売れている龍（りゅう）神（じん）警（けい）備（び）会（がい）社（しゃ）の社長自宅のセキュリティシステムが生半可なわけがない。白（はっ）華（か）は、息をするよりも自然にハッキングしたが。