『かくて綻び始める』奏音の決意
縦横変換 流石にもっと何かあると思ったのに、と白華は途方に暮れる。
相手は人間。人間なのだ。そう、自らに言い聞かせ続けないといけないくらい、耀夜の存在は白華の中で大きくなってきていた。
関わって欲しくなかったし、踏み込んで欲しくなかったし、今となっては、巻き込みたくもない存在。生身の人間は思考を読んで安心することもできず、万が一の事態が起こるとあっという間に命を落としかけてしまう。それこそ、かつての白華自身のように。
白華の、というより、奏音の事情は複雑だ。有楽部家に生まれたものの、遺伝子欠陥により役立たずとして廃棄され、それを璃音に拾われた。やっと、人間らしい扱いを受けて自我に目覚めたところで、改めて有楽部家が処分。正にギリギリのところで璃音の妹、詩音と、天音の助けを得て、命からがら、今に至っている。
奏音を拾ってくれた璃音、共に暮らす天音にしても裏の事情はやっぱりあるし、詩音などは身体が行方不明という有様で、未だに奪還の目処も立てられていない。
これらの全てを知ったとしたら、耀夜は果たして静観していられるだろうか。
きっと無理ですよね、と奏音は嘆息する。
耀夜なら、もしも奏音が最初に捨てられていたときに出会っていても。
そこまで考えて、奏音は首を振った。たらればの話など、不毛だ。
人間は信用ならない。そう考えていたはずなのに。
流石に、これ以上の長居は危険かもしれない。けれど、歩けない状態で行き先も告げずに去ることを、耀夜は良しとはしないだろう。
嗚呼もう、限界だ。
ついに奏音は決意した。事態を自らの意思で、更に動かすことを。