『かくて暴かれるのは』奏音の翻心
縦横変換 人が部屋に駆け付ける足音を背に、奏音は意識して口角を吊り上げた。けれど、璃音の表情は悲しそうなまま。
それもそのはず、奏音がにっこり穏やかに笑っているように見えるのは口元だけ。爛々と輝く目が、全てを裏切っている。
「何を、何故。気に掛ける、必要が?」
一語一語、奏音は必死で絞り出す。
「嫌なんです。もう、限界なんですよ。私は、構われたくないのに」
感情が昂ぶり、震え声ながらも音量は上がっていく。だから、その次の叫びは、部屋の外まで届いた。
「人間と関わったって、ロクな事がないのに!」
白華を問い詰めるつもりで最初に部屋に辿り着いた真理亜が、扉の外で眉間に皺を寄せた。
人間と関わっても、ロクなことがない。確かに、終始怯えた様子だった白華なら、言いかねない言葉だ。真理亜も白華のことを警戒していたが、それ以上に白華は、周囲全てを警戒していた。そう、今到着した、耀夜のことまでも。
息せき切って到着したばかりの耀夜には白華の叫びは聞こえておらず、そして真理亜の険しい表情まで気付くことなく、両拳で扉を叩く。
「無事か!? 白華!」
部屋の中で、奏音はその目を大きく見開いた。
「嘘、でしょう? 耀夜、さま」
混乱する奏音に、璃音が静かに問い掛けた。
「もう一度聞くぞ。本当に、良いのか? 彼女も、奏音の為に来たのだろう?」
「でも……っ! 彼女は人間です!!」
扉を隔てた先の主従には、白華の叫びが途切れ途切れに届くだけだ。悲鳴にも似た、血を吐くような悲痛な叫びに混じる心の揺らぎに、言葉そのものの内容まで相まって、耀夜も困惑した。
部屋の外の様子に気も回せず、今はただ震えるばかりの奏音に、璃音は容赦なく言葉の刃を突きつけた。
「我々は?」
はっとして息を呑む奏音の目に迷いの色が生じ、揺れる。くしゃりと表情が崩れ、泣きそうな顔で、璃音に告げた。
「璃音兄さん、ごめんなさい」
「こっちのことは、気にしなくていい。残るんだな?」
「ええ。もう少しだけ。あの方にだけは、恩を、返したいです」
璃音は温かく笑うと、奏音の頭を撫でた。
「たまには、ワガママを言ってもらわないと困る。部品を取ってきてやろう。その状態で動いて、辛くない筈がない」
何も持たずに飛び立つ璃音を見送る奏音の背後で、その制御下から解放された扉が開いた。