『かくて暴かれるのは』唯一の例外
縦横変換 セキュリティシステムの復活を確認した聖也が合流し、いつぞやの昼と全く同じ面子が集うのは、所移して耀夜の書斎である。
机の上に散らばった書類を集め、軽く整えた部屋の主が、ちらりと横目で聖也がコンピューターに向かうのを見て、否定するように首を振る。その方法で記録したとしても、白華ならば記録の改竄、消去ができてしまう。
察した聖也が、絶望の表情を浮かべた。手書きでの書記なんて、手が酷使される未来しか見えない。
「さて、白華。それとも、アンジェと呼んだ方が良いか」
諦観したような、もしくは覚悟を決めたような、不思議に凪いだ表情の白華は、その雰囲気のまま、ふわりと笑った。
「耀夜さまの、思われるがままにどうぞ」
思わずこめかみに手をやりそうになった耀夜の背後で、真理亜、聖也の姉弟が顔を見合わせる。今までと異なりすぎる態度に、尋問を行う予定のこちら側が翻弄されそうだ。
この調子なら、直球で聞きたいことも聞けるのでは、と思いつつも、耀夜は念のために、少し回りくどい質問から始めることにした。
「では、白華。お前は、あのザイオンサーバーで雑貨店を持っているアンジェと、同一人物だな」
「ええ。それは、紛れもなく、私ですね」
「個人には開放されていないはずの、謎多きザイオンサーバー。その唯一の例外として、一度は駆け出しハッカーたちの話題になるそうだが」
道理で、サイトに侵入者が絶えないわけだと内心こぼしつつも、白華は困ったような曖昧な笑顔で返す。
「そうなんですか? 一応、きちんと頂いた場所なんですけどね」
「それは、お前が絡繰師であることと、関係があるのか?」
白華の部屋での出来事を知らない聖也が、驚きのあまりに口を開閉する様子に視線を向け、再度耀夜を見た白華は、改めて姿勢を正した。
白華としては、人間の中でも耀夜にだけは、なるべく嘘は言うまいと思っている。が、一方で、絡繰師の残りの二人、璃音と天音の立場や秘密を護る方が、それより遙かに優先順位が高い。自己で責任のとれる範囲内であれば、何でも話して良いと思っているが、あくまでもそれは、身内に迷惑を掛けない範囲内のことだけだ。
話を戻して、ザイオンサーバーのことである。実はこの質問も、なかなかに答え難いものだった。