「関係は大いにありますが、私の能力故（ゆえ）に頂いたわけではないのです」
　語る白（はっ）華（か）の表情は憂（うれ）いに沈（しず）み、視線はどこか遠くを見ているよう。
「もし、私がハッキングが得意ではなかったとしても、きっと同じく、あの場所はいただいていたでしょう。逆にハッキングだけが得意でも、ザイオンサーバーには容易に入（はい）り込（こ）めないと思います。向こうにも、意思がありますからね。意に沿わぬ事には、ある程度は抵（てい）抗（こう）されるでしょう」
　不思議な物言いだと、耀（かぐ）夜（や）は思った。白（はっ）華（か）の語り口調では、まるで。
「ザイオンサーバーとは、知り合いなのか」
「ザイオンサーバーは、絡（から）繰（くり）師（し）に注目していますからね」
　ザイオンサーバーの真の姿と、絡（から）繰（くり）師（し）との関係。もしも全て明かしたら、耀（かぐ）夜（や）はどう反応するだろうかと白（はっ）華（か）は想像する。
　荒（こう）唐（とう）無（む）稽（けい）だと一（いっ）笑（しょう）に付すだろうか。それとも。
　白（はっ）華（か）に手を差（さ）し伸（の）べたように、助けてはくれないだろうか？
　いずれにせよ、白（はっ）華（か）の一存だけで話せるような内容でもない。少なくとも本人と、璃（り）音（おん）には承（しょう）諾（だく）を得る必要がある。
「あー、すんません。一（いっ）旦（たん）、抜けるっす」
　書記をしていた筈（はず）の聖（せい）也（や）が、決まり悪そうに割（わ）り込（こ）んだ。
「どうした、聖（せい）也（や）」
「俺（おれ）にお客さんが来たらしくって、ちょっと相手してこなくちゃなーって」
　耀（かぐ）夜（や）に告げる聖（せい）也（や）の片手には、携（けい）帯（たい）通（つう）信（しん）端（たん）末（まつ）がある。白（はっ）華（か）が、通（つう）信（しん）網（もう）の掌（しょう）握（あく）を放（ほう）棄（き）しているため、今は通（つう）信（しん）も完全に正常化していた。
「お客？」
「風（ふう）薫（か）ちゃんって言えば解（わか）るっすか？」
「ああ、あの子か」
　件（くだん）の情報屋の少女のことは、耀（かぐ）夜（や）も知っている。確かに、いくら白（はっ）華（か）の尋（じん）問（もん）中とはいえ、おろそかにしても良い相手ではなかった。
「いいぞ、行ってこい」
　上司の許可を得て、そそくさと耀（かぐ）夜（や）の書（しょ）斎（さい）を去る聖（せい）也（や）。
　フウカ、と呼ばれる、恐（おそ）らくは女性。どこかで記（き）憶（おく）に引っかかり、白（はっ）華（か）はそれを検（けん）索（さく）した。そして、その姿にそっと息を呑（の）む。だから記（き）憶（おく）に引っかかったのだなと、納（なっ）得（とく）もしたが。