実験の足音
縦横変換 幸崎天音が、ニンマリと笑っている。
「そろそろ、璃音の実験の話をしよう」
もう、実験の内容は、他の被験者で何度も見てきた。人間を、機械人形に変える実験だ。
実験が成功しようがしまいが、人間でなくなる以上は、詩音の元には帰れない。そんな、実験。
幸崎博士は嬉々として、天音にぃは悲しみを隠して、笑う。だから、幸崎天音がニンマリと笑っている。
「璃音は、どんな能力が欲しいのかな? 誰にも傷つけられない頑丈な身体? 誰よりも賢い頭?」
否定の意を込めて首を振ったら、幸崎博士が片眉を上げた。
「ふうん?」
「日光で爛れない程度の丈夫さで良い。これ以上のお勉強も、要らない。でも」
天音にぃは、この夢を聞いたら、きっと傷つくのだろう。でも。
「空を飛びたかった。ずっとずっと、昔から。空の上はさぞかし自由なのだろうなって、あの色とりどりの天球を、心行くまで満喫できたらなって。スクラップ場の片隅から、ずっと、憧れていた」
「なるほどなるほど、空を飛ぶのは確かに昔からの浪漫だ」
ニンマリにまにま、幸崎天音は笑う。
「では、君の実験用コードネームは【天使】、いや、せっかくだから【堕天使】としよう。いいね、【堕天使】?」
「幸崎博士の、仰せのままに」
もう、幸崎博士が璃音という自分の名を呼ぶことは、ないだろう。天音にぃも、きっと。
「……そんなに僕から逃げたかった? 璃音」
一礼して部屋を去ろうとしたときに、何かが聞こえた気がした。