堕天使の素体
縦横変換 天音にぃは、キレイなものが好きだと思う。
目の前に佇む、未来の自分の素体を見て思う。
鏡で見ている自分の面影はある。けれど、それ以上に目の前のこの人形は端正に整った顔立ちをしていて、果たして自分が後にこの顔になるのかと思うと、背筋がむず痒くなる。
背部から広げられた翼も相まって、なるほど【堕天使】というのも、頷ける。美しい顔をしながら、背に翼を負いながら、それら全てが人造の紛い物とあれば。
さらりとした手触りの、素体の髪を手に取る。自分の髪が、アルビノ特有の白色なのに対して、この素体の髪は瑠璃色だ。髪と翼を中心に、動力となる光発電のユニットを組み込んでいるため、濃い色の方が良いのだという。
『璃音の漢字が入っているから、瑠璃色にしようか』
不意に、天音にぃの楽しそうな声が脳裏に甦って、思わず目を伏せた。最近、天音にぃに避けられている気がする。もう、名前を呼ばれることはないだろうなと覚悟はしていたけれど、まさか話すことそのものが減るとは思わなかった。
自分の言葉で傷つけてしまったのだろう。あのとき、希望を聞かれたあのとき。
何も言わず、黙っていれば良かった。傷つけるという予感すらあったのだから、浮かれて過去の夢を思わず語ってしまわず、ただ黙っていれば良かったのに。
帰る場所など、此処より他は、もう喪ってしまったも同然。永遠に、空を飛びたいわけでもなし。
今はただ、天音にぃの声が恋しい。寂しい。
天音にぃだって寂しかろうと思うのに、今までの積み重ねできっと、こじらせることしか知らないのだろう。話しに行きたいのに、謝りたいのに、天音にぃからずっと避けられてしまっては、仲直りをする機会もない。
手に取った髪の房に、そっと額を押しつけた。天音にぃの存在を、少しでも感じられる存在に、縋り付きたかった。