順調ではない実験

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 くらっと、目が回った。いわゆる立ちくらみというやつだ。
 実験の経過で、けては通れない有害事象だと、知っている。段々立ちくらみの頻度ひんどが増えて、記憶きおく曖昧あいまいになって、身体が動かせなくなって、ついに永のねむりについたのかと思えば、何故なぜ素体そたいの中で、すっきりと目が覚める。他の被験者ひけんしゃは、そうだったという。
 頭には、脳の活動を記録するらしい機械が装着されている。周囲からのノイズをなるべく拾わないように、機械は被験者ひけんしゃの脳に近い場所にあるのが望ましいらしい。見た目は、少しゴツいヘルメットだ。
 これをかぶるようになってから、すでに……すでに?
 自分は、どれだけこれを身につけているのだろうか?
 ……すでに、記憶きおく曖昧あいまいになってきているらしい。背筋がぞわぞわとふるえるのを、気力でかくす。
 だって、今日は、天音あまねにぃが来ている。実験経過を確認かくにんするために、幸崎こうざき博士として来ているのは間違まちがいない。けれどせっかく久々に会っているのだから、余計なことに気を取られてほしくない。
 幸崎こうざき博士の指示に従って、定められた制御せいぎょ装置にすわり、素体そたいに接続して、動かすよう意識してみる。
 身体が動かせなくなるのと反比例するように、素体そたいを動かせるようになっていくのが通常、らしい。自分の場合は、今までになかった装置であるつばさ邪魔じゃまをしているのか、なかなか自力で動かせるようにはなっていない。つばさに限らず、素体そたいの全身そのものも。
 幸崎こうざき博士が何か、指示を出している、気がする。でも、おかしいな? 聞こえているはずなのに、何を言っているのかわからないよ。
 あれ、アマネにぃがリオンのもとに走ってきている。何かあったのかな。
 ……あ、上の上に、カケルにぃとシオンがいる。リオンのこと、こっちにおいでって、呼んでる。行かなきゃ。
 オニーサン、はなしてよ。シオンが呼んでるんだよ。
 上の上は、きっと広くて……。