堕天使

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「バカバカ、この大馬鹿っ!」
 天音あまねにぃは、ご立腹だ。飛行実験と飛行訓練の後、唐突とうとつ天音あまねにぃの自室に呼び出されたから、何事かと思った。
 ご立腹そうな天音あまねにぃだけど、普段ふだんならこわいけれど、今は全然こわくない。部屋に入るなりめられてのお言葉じゃ、裏の本音がちがうところにありそうなのが、バレバレだ。こういうところ、天音あまねにぃはあまい。というか、幼い。天音あまねにぃの方が年上のはずなのに、ねている詩音しおんを相手している気分になる。
「どうしてぼくがあんなにおぜんてしてあげたのに、げないのさ!?」
 道理で訓練コースが面白おもしろかった訳だけれど、はて、げるとは?
 どうやら、疑問がそのまま口から出ていたらしい。頭の上の天音あまねにぃが、眉間みけんにしわを寄せた。
「自由になりたかったんじゃないの?」
 何のことかわからず、見上げたまま首をかしげたら、今度は深々と嘆息たんそくされた。
「空の上は、さぞかし自由なのだろうなって言って、空を飛びたがってたじゃん。だから。璃音りおんも、もうかしこいからわかってるでしょ? このままここにいたら、一生ぼく一緒いっしょに実験けだよ」
天音あまねにぃとなら、問題ないな」
ぼくとならって……えっ、ちょ、璃音りおん!?」
 とってもくだらない問題だったみたいなので、お返しに天音あまねにぃをぎゅっとしてやったら、見事にパニックになった声が聞こえた。
「というか、天音あまねにぃじゃなきゃ、イヤだ。天音あまねにぃがいるからもどってきたのに」
 天音あまねにぃにもだれかがいないと可哀想かわいそうだ。と、結構前から思っているのは、だまっておく。天音あまねにぃはきっと、側にいてくれるだれかを、ずっとくるおしく求めていたのだ。そして、自分も、また。
 だから、ちょうど良いのではないだろうか。
天音あまねにぃは、自分がいては不満か?」
 上目遣うわめづかいに見上げたら、天音あまねにぃが撃沈げきちんした。
「何だよ、もう。本当に天使が堕天だてんしてる……」