追憶の始まり

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 この研究を始めたころは、まさかこんな事態になるとは予測もしていなかったなぁ、と、爆発音ばくはつおんと共に時折れる研究所の中で思う。
 身体からだはもう、ほとんど動かないし、思考もきりがかかったようにぼんやりとしてきて、だから研究所の崩壊ほうかいする中でも、こんなに暢気のんきに考え事ができるのだろう。
「もし、この子がちゃんと完成したら、どんな名前にする?」
 不意に、声が聞こえた。ああ、そうだ。ぼくは、最期さいご瞬間しゅんかんまで、最期さいごの作品を、作ろうとしていた。そして、その生贄いけにえに、ぼく自身をえた。
 ふふ。ぼくぼく自身に付ける、コードネームかぁ。
 思わず口角が持ち上がったのを自覚した。かすむ視界の中、瑠璃色るりいろかみいとぼくの最愛の堕天使だてんしである璃音りおんが、へにょりとまゆを下げたのが見える。きっとぼくは今、最高にニンマリとしているのだろう。
「そう、ぞう……しゅ」
 たった三文字の単語を口にするのも、だるい。
「『創造主』?」
 復唱した璃音りおん、コードネーム堕天使だてんしは、クスッと笑った。
随分ずいぶん自惚うぬぼれた名前だな。天音あまねにぃにピッタリだ」
 今までの作品たちにとって、作り主たるぼくはどんな存在なのだろう。ずっと気になっていた。けれど、ずっと、聞くこともなかった。
 というか、聞けなかったんだよなぁ。何せかたぱしから、してしまったり、こわれてしまったり、うまくいったと思ったら、組織に徴収ちょうしゅうされてしまったりして。唯一ゆいいつの例外が、今もとなりにいる璃音りおんだ。璃音りおんは色んな意味で、コードネーム通りの堕天使だてんしだった。
 そう、堕天使だてんしなんだ。天からちてきて、人間をとす、堕天使だてんし
 目を閉じれば、この怒濤どとう一ヶ月いっかげつ間が、まぶたの裏によみがえってくるようだ。