日常の崩壊
「……ふうん、一ヶ月ねぇ」
思わず、口から漏れ出ていた。確かに、そろそろ粛正される頃合いかな、とは思っていたけれど。
僕の元々の研究動機を璃音が満たしてくれたおかげで、やっと改めて、今までの我が身を振り返る余裕ができたんだけれど、まあヤバかった。そりゃあ皆にも、マッドサイエンティストと呼ばれていても無理ないなと思った。何せ、やっていることは立派な人体実験だ。しかも、人間を絡繰人形にするソレを、寧ろ嬉々として、実行していた。
最終的に形になったのは、全部で十二人。璃音の前に十人、そして璃音の後にも、組織からの指示で、一人。しかも、形になりだしてからのカウントということは、失敗作も当然あるわけで。幸いにも僕の主な担当は素体と呼ばれる義躯作りだったけれど、人間の精神活動を機械に移し替えていた、他の担当の所業も加えたらどうなることか。うわ、自分で言ってて鳥肌立ってきた。
「一ヶ月で全部引き払って投降するんだったら、命だけは保障してやるってさ。『考える猶予を一ヶ月やる』……はん! あいつら何様のつもりだっていうの」
周囲がざわついている。多くが真っ青な顔をしている。そりゃそうだ。彼等は、無理矢理集められてきた、或いは金に目がくらんだ雇われ助手が大半だ。まさか、一緒に粛正されてくれるはずもあるまい。
一緒に粛正させる、義理もない。今の僕には、璃音がいるから。
「ほら、聞いたでしょ!? 出て行くなら今のうちだよ、とっとと行った行った!」
シッシッと追い出すように手を振って見せたら、更にざわめきが広がった。え、まさか僕の言葉が意外だったとか言わないよね。かつてのことを考えたら、意外に思われても仕方がないのかなぁ、反省。もう、遅い気もするけど。
蒼い顔に少しだけ色を取り戻して、我先にと飛び出していくかつての助手たち。きっと、たまたま今は折り悪くこの場にいなかった、他の助手たちも連れて、逃げ出してくれることだろう。
急にガランと人気が減ったせいか、研究所がなんだか広々として見えた。広々と、というよりは、寒々と、か。
「……ま、こんなもんだよね」
ぼやいていたら、背後から小さな足音が響いた。