蛇足

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 だれかが笑っていて、だれかが泣いていて、だれかがおこっていて、だれかがなげいていた。
 世界は、かべ一枚へだてた向こう側に在り、出来の悪い映画のようなソレを、たまかべ諸共もろとも、粉々にこわしたくなる衝動しょうどうがあった。
 ざざー、ざー。ほら、ノイズが走る。視界がゆがむ。音が割れる。
 くらい底無しぬましずんでいくみたいに、ネットリとした何かが思考にまとわりつく。ボクという存在が、おぼれてれてひび割れて。
天音あまねにぃ」
 天から光が降るが如く、璃音りおんの声がして、ボクの意識は現実にもどされた。
 両手いっぱいに、レアメタルをふくんだガラクタをかかえてきた璃音りおんが、不安そうにボクを見ている。
「おかえり、璃音りおん。今日もいっぱい収穫しゅうかくあったんだ?」
「まあまあ、いつもの通りだ。それより天音あまねにぃ、最近、ぼんやりしていないか?」
「うーん、そうかもね」
 原因は、おそらく、ボクを構成するプログラムの不備。やっぱり、高速モードで実行して、さらに最後の段階で完了かんりょうできていなかったのが、ひびいていると思われる。
 プログラム関係、まさか自分で自分を走らせたままメンテナンスまでできる自信なんてないし、そもそもボクはそっち方面については陽浦ひうら博士にはおよばなかった。せいぜい、衝動しょうどうに身を任せすぎないよう、ロックをけるのが精一杯せいいっぱいで。
 モニターが一つ、またたいた。どうやら外で、雨が降り出したらしい。
「ま、仕方ないよ、璃音りおん。ちゃんと動けているだけ、もうけものさ。それより、雨が降ってきたみたいだよ」
 雨が降ったら、地下にあるこの拠点きょてんに雨水がはいまないよう、入り口や一部の排熱孔はいねつこうを閉じている。いずれはその辺りも全て自動化したいけれど、それより優先順位の高い仕事が多すぎて、まだそこまで手を回せていない。
 排熱孔はいねつこうを閉めていたら、入り口を閉めに向かったはずの璃音りおんが、ボクを呼ぶのが聞こえた。
「どうしよう、天音あまねにぃ。入り口に、子どもがてられてる」