まるで水槽の中

縦横変換

 こぽ、こぽぽ。
 気泡音きほうおん子守唄こもりうた代わりに聞きながら、意識は微睡まどろみよりもさらに深くしずんでいる、自覚があった。
 思考がまとまる気配もなく散り散りで、自身の置かれている状況じょうきょうですらも把握はあくできない。身体からだの感覚がひどくあやふやで、一体自分がきちんと目を開いているのか、それとも閉じているのかさえも、自信が持てなかった。
 遠くで、だれかとだれかが言い争っているような気がする。
 いや、正確には。だれかが、だれかに、ってかっているように思えた。しかも、思ったほど遠くはない。分厚い硝子がらすかべを、へだてているだけで。
 自分のこともよく分からないのに、何故なぜだかその二人のやりとりは知覚できる。気がする。
 よくよく考えたら、奇妙きみょうなことだ。身体からだはなれて、これではまるで、幽体離脱ゆうたいりだつではないか。
 吸い寄せられるように、ふらふら、ふわふわとかべとおけて二人組に近付けば、せていた視界にいろもどってきた、気がした。
 瑠璃色るりいろかみの子供が、少しくれないがかった茶髪ちゃぱつの子供に、何ごとかをうったえている。そして、どちらの顔にも、なんとなく見覚えがあった。
 いや、なんとなくどころではない。だって、彼等かれらは。自分は。
 一気にふたをしていた記憶きおくあふしそうになり、浮上ふじょうしかけていた意識がまた悲鳴を上げた。
 ずぶりと無意識の沼底ぬまぞこきずりまれて、二人の姿が急速に遠ざかっていく。
 咄嗟とっさばしたうでは、何処どこに届くこともなく。
 ああ、しずむ。まれてしまう。
 こぽり、こぽ。