人形の生い立ち

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 ……こういうのを、走馬灯そうまとうとか言うのだったか。思い返すのにも、あまり時間のかからない、短くて取るに足らない人生だった。
 古くからの名門と名高き有楽部家うらべけの長子として生まれながら、双子ふたごの弟、光希みつきためだけに生かされていた。光希みつきためだけ、とは言うものの、光希みつき本人は自分のことなど知らないだろう。あの家では、自分の存在など所詮しょせんそんなものだった。
 ちなみに光希みつきとは一卵性双生児いちらんせいそうせいじの関係だが、自分については男性らしさはほぼない。何が理由かというと、遺伝子疾患しっかんの、アンドロゲン不応症ふおうしょうである。大雑把おおざっぱに説明するなれば、男性型の遺伝子を持ちながら、女性の外観で生まれる病気で、妊娠にんしん・出産は不可能。
 血を次代に残すため、つまり跡継あとつぎが必要という理由で、光希みつき胎児たいじの段階から遺伝子治療ちりょうを受け、男性として生まれた。しかし、遺伝子操作そうさなど、未認可の闇治療やみちりょう。いざという時の中継なかつぎ候補として、未治療みちりょうで生まれたのが自分だった。
 根本的な出来損できそこないの身としては、いざという時の影武者かげむしゃの役をいただけるだけでも、身に余る光栄。そんな風に言われ続けてきたし、自分が役に立てるのはそれくらいなのだと、そのころは本気で信じていた。
 自分の行動は全て、周囲の世話係たちの指示か、あるいは光希みつきの言いそうなこと、やりそうなことを基準に決められた。自分の意思は不要というか、いっそ邪魔じゃまで。物心つくころには疑問の芽はまれていたから、きっとその前から、教育は始まっていたのだろう。
 出来損できそこないが人間であるはずもなく、道具は人間に使われるのが当たり前。勿論もちろん、道具は人間ではないから、用済みになれば廃棄はいきされるのも、またしかり。
 光希みつき身体からだが安定し、無事に男性として成長し始めたから。
 出来損できそこないの人形は、あっさりと廃棄はいきされた。
 それでもぐさま処分されなかったのは、きっと奇跡きせき。もしくは、道具を手入れしていた世話係たちの、多分ちょっとした意趣返いしゅがえし。
 とある貧民街ひんみんがいの一角をめる違法廃棄場いほうはいきじょうに置き去りにされ、降りしきる雨の中、いよいよ終わりを覚悟かくごしていた。
 ところがそこに、最大のイレギュラーが現れて。
 廃棄物はいきぶつは、拾われた。