拾われてからの日々は、それまでとの違（ちが）いに戸惑（とまど）うことも多く、生まれて初めて色々と考えさせられた。
　拾ってくれたのは、少しばかり色合いが派手で、ついでに顔立ちもとても整っていて、結構目を引く二人組だった。瑠璃色（るりいろ）の髪（かみ）に、赤い瞳（ひとみ）を持つ璃音（りおん）。栗梅色（くりうめいろ）の髪（かみ）に、瑠璃色（るりいろ）の瞳（ひとみ）を持つ天音（あまね）。
　自分とそう変わらない歳（とし）のようなのに、妙（みょう）に大人びていて。ついでに、何やら隠（かく）し事（ごと）があったようだったけれど、そんなことは、その時は、どうでも良かった。今になって思い返すに、その疑問を深く考える余裕（よゆう）が与（あた）えられなかった、だけかもしれない。
　好みとは？　幸せとは？　自分の意見？
　与（あた）えられた指示に従うのでは、駄目（だめ）なのか？
　突然（とつぜん）尋（たず）ねられる問いは、今まで聞かれたこともないものが多く、更（さら）に光希（みつき）の答えではなく自分の言葉で、と条件まで付けられては何も返事できず。
　璃音（りおん）は深いため息を吐（つ）き、天音（あまね）はニヤニヤと笑っていた。
　手探（てさぐ）りで始まった自分探しに忙（いそが）しくて、それを見守ってくれていた二人のことなど、そんなものだと受け入れていた。
　あの二人にしてみれば、自分は相当に変な、そして哀（あわ）れなモノだったのだろう。何せ、拾われてから最初の会話があまりにも酷（ひど）かった。
　名前を問われて有楽部（うらべ）光希（みつき）の影（かげ）だったもの、と答え、他の呼び名を問い直されて出来損（できそこ）ないと答え、もっと他の呼び名、と問（と）い詰（つ）められて五回目くらいで、やっと思い出した名前が有楽部（うらべ）闇呪（あんじゅ）。読み方は可愛（かわい）いのにえげつない名前、とは天音（あまね）の評。璃音（りおん）はそっと頭を撫（な）でてきて、じゃあ新しい名前を考えるかと言った。
　二人が相談して自分にくれた奏音（かのん）という名前には、偶然（ぐうぜん）か意図的にかおそろいの漢字が入っていて、大切なものをもらったのだと思ったときには好きになっていた。そのときには拾われてから何ヶ月（なんかげつ）も経（た）っていたけれど、居ても立ってもいられなくなり、お礼を伝えにいった。天音（あまね）はニコニコと笑って、璃音（りおん）は半ば泣きそうになりながらも笑って、喜んでくれた。
　やっと自分の好きなもの見つけられたんだね、と祝ってもらって、まだ数日しか経（た）っていない。