受け入れられない

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 嗚呼ああ何故なぜ廃棄はいきする前に処分しておいてくれなかったのだろうか。人形は、中途半端ちゅうとはんぱ自我じがに目覚めてしまった。
 今になって、改めて処分されたのだと、そしてもう、命がついえかけているのだと、知ってなお、受け入れられないのだと、かつての自分では考えられなかっただろう。
 祝ってもらったのが、うれしかったから、お礼をしたいと思っただけだったのに。天音あまねほど器用ではないけれど、おそろいの何か、何か身につけられるものを作ろうとして材料を買いに行っただけなのに。
 今まで食料品など買いに行っていたときは、何もされなかったのに。どうして、こんなときに限って。
 やはり雨の降る中、今度は終わりを覚悟かくごできなくて。てられても、ぴくりとも表情の動かなかったあのときと、処分されて、ぐしゃぐしゃに泣いている今。一体どちらの方が、ひどい顔なのか。
 もう、身体からだまぶたくらいしか動かない。耳には、サラサラと、静かな雨音が反響はんきょうするのみ。雨となみだにじみににじんだ目の前に、不意に映った瑠璃るりの色、璃音りおんの色。
奏音かのん!」
 璃音りおんの声が、静かな世界にこだまする。
「帰りがおそいと思ったら……大丈夫だいじょうぶ、ではなさそうだな。分かるか、奏音かのん?」
 もう首は動かなかったから、一回ゆっくりとまばたきをした。ほんの少し明瞭めいりょうさをもどした視界には思った通りの赤いひとみがあって、何故なぜだか余計に泣けてきた。
だれがこんな非道ひどいことを。いや、それよりも今は、帰って奏音かのんの手当だな」
 なぐさめというか、本当に気休めなのだろうと、そう思った。念入りに処分された身体からだは、おそらくもう長くはもたないだろうと、自分でも感じ取っている。今、まだ生きていることが、きっと奇跡的きせきてきなことなのだ。
 ぐらりと、身体からだかしいだ。璃音りおんかかげられたのだと、目線の高さから知る。
「すまない、奏音かのん。急ぐからな。つらいところに、無理をさせる」
 バサリ、何かが宙を打つ音がした。周りの光景が一気に動き出す。
 下へ、下へ。下、へ?
 身体からだにかかる力もまた、自分が上へ向かっていることを示している。
 まさか、そんな。空を、飛んで?
 気を失う前に見たものは、灰色の空をあざやかな瑠璃色るりいろつばさだった。