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先生、(神代望視点)

 脳波読み取り装置と外殻を併用しながらネットサーフィンをしていたけれど、集中できない。聞こえてくる足音が、やたら多くて、うるさくて。
 ここ数日、リハビリの時間以外でも外殻の着用が許可されていて、いつでも好きな時間に好きなように動いて良くなったのだけれど、やっぱり集中力には限界があるし徳永先生のサポート無しでは動きが安定しなかった。あの先生、一昨日からすっごく不機嫌なんだけど、俺には一切当たらないし、仕事にも手を抜かない。すごく、先生らしいと思う。
 もう世間からほぼ隔絶された生活を送っているけれど、たまにはと思ってニュースサイトを開いた。テロ予告に厳戒体制、のトップニュース。とても物騒な世の中に、
 ——パァン!!
 息を呑んだ。
 破裂音、だよな。今の。
 嘘だろ、まさかさっきのニュース——
 ガララララッ!! とても乱暴に引き戸が開けられる音。
「いたぞ、悪魔の実験体だ!」
 元からまだ声は出ていないけれど、もしも声が出せたとしても、出せただろうか。こんな明確な悪意と死の気配を、前にして。
 身体が震える。逃げたい。その手段もある。外殻は装着されている。でも動けない。恐怖で凍りついた身体が、悔しい。
「神をも恐れぬ悪魔に天ば——おわっ!?」
 ドタン、と、大きな音がした。誰かが転倒した時と同じ音。
 そして、聞きたかった、いや聞こえてはいけなかった、声。
「させませんっ!」
「邪魔するなよ、このクソ医者がっ!!」
 そして再び、破裂音。何回も何回も、連続して。
 そんな、まさか——
「……っ!!」
 何とか外殻を動かして向けた視線の先、見たくなかった最悪の光景。震える喉から、悲鳴が絞り出された。
 嫌だ、どうして、常葉先生。
「ちくしょう、遅かったかっ!」
 徳永先生の声がして、犯人が誰かに羽交締めにされてて、でも常葉先生は。
 どうにかして——どうすれば——他の何もかもを思考からも視界からも締め出して、やっとベッドから滑り落ちるようにして、常葉先生の胸元に咲いた真紅に手を伸ばす。
「しな、ないで」
 無我夢中だった。
「ときわせんせぇ、しなないで……!」
 ぼたぼたと零れる涙は、何の役にも立ちやしない。常葉先生の傷を何とか修復するには——修復、する手段は。
 俺は、外殻を纏った両手を、そのまま常葉先生の傷口に突っ込んだ。
 ナノマシン。俺の神経損傷すら修復したナノマシンなら。外殻にはあるって、徳永先生が言っていた。この外殻だって、俺の脳波に反応するのだから。
 生かせてくれ。このまま、死なせないで。
 集まってきた医療スタッフたちに力尽くで引き剥がされるまでずっと、常葉先生の傷口を押さえ続けていた。
 常葉先生がストレッチャーに乗せられて、運ばれていく。おそらくは、手術室へ。
 俺はそれを、ただ見送ることしかできなかった。