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応えてくれた先生(神代望視点)

 もう何度も何度も、ニュースサイトを表示させたブラウザの更新ボタンを連打していた。
 だって、そこを見ないと、常葉先生の生死が確認できそうにないんだ。死んだってニュースにならなければ、先生はまだ、生きてるはずで。
 多分俺の目は寝不足やら何やらで真っ赤に腫れているのだろうけど、徳永先生は、何も言わないでいてくれた。ありがたい。でも常葉先生の安否は、教えてくれない。もどかしい。
 三日ほど経って、いよいよ俺が寝不足と心配で気が狂いそうになってきた頃、徳永先生が車椅子っぽいものを押してくる音が聞こえた。
 多分車椅子なんだと思う、似た音を聞いたことがある。でも、今までにリハビリの為に持ってきていた車椅子とは、音が少し違うような……。どっちかというと、徳永先生じゃなくて看護師たちのよく響かせる——あっ。
 コンコン、と、いつもより低い場所から響く、心底望んでいたノックの音がした。
「は、い」
 応える声が震える。聞こえただろうか。俺の声が。寝不足でふらつく身体を外殻で操って、扉の方を向く。
 果たして徳永先生が開けた扉の向こうには、車椅子に座って、常葉先生がいた。
「失礼しますね」
 穏やかで柔らかくて耳に心地良い声が、ゆっくりと丁寧に紡がれる。
「どうぞ」
 応えたら、徳永先生が車椅子を押して、入室してきた。数日ぶりに見る常葉先生は少しやつれた感じで、俺と同じように患者服を着ていて、なのに、膝の上には白衣が掛けられていて——そして、患者服の襟元から、何かの蔦植物が顔を覗かせていた。
 正直、何も知らずに見たら、この上なくチグハグでシュールな姿だろう。けれど、俺は泣きそうだった。常葉先生が、生きててくれた。死なずに、会いに来てくれた。
「すみません、やっとベッド上安静が解除されまして。取り敢えず診察名目で、来てしまいました」
「常葉先生、ずっと回診行かせろの一点張りだったっすもんね」
「そりゃ心配、でしたから」
 常葉先生は、真っ直ぐ俺を見て、目尻を下げて、心なしか、甘やかさを含んだ声で——感謝の言葉を述べた。
「ありがとう、ね。しなないで、って、聞こえてた」
 届いてた。瀕死だったのに、常葉先生、俺の声を受け取ってくれたんだ——
 そして気付く。先生、いつもの丁寧語じゃ、なかった。もっと訥々とした、だけどやっぱり穏やかで静かな、先生の「素」の言葉。
 もう、涙腺崩壊を止められなかった。
「常葉先生が患者さん泣かせてるっすー」
「えっやっぱり神代さんが泣いちゃったの僕の所為、ですか!?」
「だっ、て……っ、あんなにっ、撃た、れて……常葉せんせぇ……」
 常葉先生はしばらく唸って、観念したように教えてくれた。
 確かに何度も撃たれて、体内には銃弾が幾つもあったらしかったこと。肺の比較的大きな血管も破けていたこと。それでも。
「君が外殻とナノマシンを提供してくれたおかげで、それらが大きな血管を修復してくれてたらしくって、緊急手術は結局弾丸を摘出するだけだったそうです。執刀医が頭抱えながら教えてくれました」
 その口調はもう先生らしい先生の口調だったけれど、今までの常葉先生なら絶対に先生自身のことは教えてくれなかったのが、教えてもらえている。
 俺はその事実に舞い上がって——徳永先生が、妙に静かなことを、聞き逃していた。