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ぶちまけてきた先生(神代望視点)

 常葉先生、やっぱり本来はそんなに動いていても良い状態じゃないらしくて、連れ戻されてた。常葉先生を、恐らくは先生の病室まで送って行った徳永先生は、何故か俺の部屋に戻ってくるなりドッカと病室の丸椅子に座って——俺を、睨んだ気がする。
「リハビリの時間なんすけどねー」
「あ……はい」
「正直、もう自主トレできるっしょ? だからちょっと今日はね、オレの独断で別のことするっす」
 俺は、多分何回も瞬きしたんだと思う。だって、どんなに不機嫌でも俺に当たらず、仕事だけはキッチリとこなしてきた徳永先生が——ちょっと待って。常葉先生だって、さっきは色々、「普通じゃなかった」。
 そんな俺の困惑なんか知ったこっちゃないとばかりに、徳永先生は口を開く。
「オレは誠とは高校からの腐れ縁だから、色々見てるんっすよ。ほら、どっちも苗字、『と』で始まるっしょ? 常葉、徳永って」
「……えっ?」
 俺の口からはそれしか出なかったけれど、えっ、つまりは常葉先生と高校からの、いやちょっと待って今、常葉先生って言ってなかった。誠って、
「呼び、捨て」
「まあ仕事じゃなけりゃ、ね」
 徳永先生は一瞬ニヤリと笑って、でもまた直ぐに俺を真剣な眼差しで射抜く。
「でね、あいつマジで馬鹿なんすよ」
「は、はあ……」
「神経系の難病持ち短命家系なのに自分の受診避けてるし」
「え?」
「お前のこと庇ったのも、半分は多分自分の未来諦めてたからだし」
「ちょ、ちょっと、待って……」
「しかもお前に入れ込んでんのに自覚ないし」
「……えっ???」
 どういうこと。どういうことだ。俺が漏らしている困惑の声を相槌代わりに、徳永先生からの爆弾発言が、止まらない。今俺は、何を聞かされて——
 短命家系なのに受診を避けて、未来を諦めて? いやそれもそうだけど、俺に入れ込んでる? 自覚なく?
「嘘だと思うなら、本人に聞いてみると良いっすよ? オレにははぐらかそうとするけど、さっきお前には、素直に応えてた。そんなの、初めて見た」
 ゴクリと自分の喉が鳴る音が、やけに大きく響く。
「あの馬鹿、聞かれたら嘘なんかつけないくらい不器用な癖に、一丁前に隠そうとはしやがる。だから、それさえできない相手っぽい、お前に託すっす」
 徳永先生が、ガバリと頭を下げた。
「頼む」
 俺は、呆然と、徳永先生の頭を見ていた。今日のこの、一時間にも満たない間に、俺の心があまりにも振り回されすぎてしまって、咄嗟に理解が追いつかない。
「と、常葉せんせぇ、を——」
「まあ、どうしてくれたって良いっす。聞いてみろって言いましたけど、お前がこのままで良いって言うなら、それでも。でも神代さん、」
「……」
「良い目、してますもんね? 気付いてたでしょ、オレとお前だけが、誠にとっての特別枠だって。で、そんなオレが言うんだ。オレよりもお前の方が、あいつにとって特別なんだって。聞いてみろって」
 そ、れは。
「……ずる、い」
 徳永先生は、そこでようやく、いつものように笑った。
「オレの方が大人っすからねー」