幕間三(常葉誠視点)
守に自分の病室に連れ戻されて、先に神代さんのリハビリがあるから待ってろって言われて——ただただベッドに寝転んで、天井を眺めている。
そう、守は、僕のリハビリまで担当することになってしまった。だから、カルテを見るだろう。そして、僕の病気のことも、知るだろう。進行していく、神経性の——身体の動きだけが奪われて、何もかも感じて分かっているままに死んでいく、そんな病気を両親のどちらからも遺伝されて、その分、サクサク発症してサクサク進行してサクサク亡くなる、その事実を。分かっているのに受診すらしなかったんですね、と、同僚の先生にも思いっきり皮肉られたくらいた。守だって、きっとまだすごく怒っている。
病室はとても静かで——静かなのは、嫌いではないけれど、でも。今の僕は余計な考えが、後から後から、湧いてしまう。
死なないで、しまった。しなないで、って、泣かれたから。
これだけの騒ぎになったから治験の新規募集は当然のように中止になって、その分、宙に浮いた脳波読み取り装置が一つ、僕のために調整されてしまった。そんな予定は全くなかったのに——今の僕は、脳波読み取り装置をつけて、神代さんが止血目的で譲ってくれたナノマシンと外殻を抱えて、これだとまるで、僕自身のために、今まで治験を頑張ってきたみたいで……
「戻って来たぞ、誠。楽しい楽しいリハビリの時間だ」
扉を開けた守は、僕の顔に何を見たのだろう。はーっ、だなんて、そんなに盛大に溜め息を吐かれるような、そんな情けない表情を、していたのだろうか。
「胸にあるやつ、もう動かせないし外せないんだから、いい加減に腹括れって昨日も言ったよな?」
「そ、そうだけど……」
「せっかく治験の特別最終枠に滑り込んだんだから、もっと貪欲に活用しろっての」
そしてここ三日でお決まりになってしまった言葉を、守はまた口にする。
「『しなないで』って言われて、その気になったんだろ?」
それを持ち出されてしまったら、もう僕に言える言葉はない。そう、神代さんが、泣いた。泣きながら、必死に僕に——
「……うん」
「まあ、お前にしては頑張ってる方だけどな。外殻があるとは言え、普通致命傷から三日で安静解除とか無理だかんな?」
外殻。僕の中に根付いた、神代さんの外殻。服の下に基盤を沿わせて、でも僕から外せないから、光合成する部分も僕の邪魔にならない範囲で展開が必要で。今は、胸から伸びた蔦を、襟元から頭上に逃している。これも、まだまだ守の手を借りないと調整できない。
変に固まらないように、守は僕の手足を動かしてくれる。どんなに僕に腹を立てていても、守は仕事には手を抜かない。
「今日はここまでだな」
「うん、いつもありがとう」
普段なら、リハビリ後の会話はここで終わる、はずだった。なのに——
「そうそう、お前。覚悟、しておけよ」
僕は、首を傾げた。腹を括れ、とは散々言われてきたけれど、覚悟しろだなんて、何だか守にしては不思議な物言い、だな?
【徳永守の日記】
もう知らん。オレは知らん。神代に全部ぶちまけて発破も掛けてやったし、誠にも予告した。だから知らん。……って、本気で投げ出せたら、どんなに楽——じゃないから、こういうことになってる。
神代、まさかあの誠にあんなに惚れ込まれるなんて、難儀なやつ。おかげで初めて誠に対して弱味をガッツリ握らせてもらった気分だ。オレがどんなに「死ぬな」って言っても返事もくれなかったやつなのに、今じゃ「しなないで」って言われたことを持ち出せば、あっさり陥落してくれやがる。その分、本人は慣れないこと考えてモヤモヤしてるようだけど、今までのツケだ。しかも、あんなにはぐらかしてきた本人の事情さえも、誤魔化さないんだからな。
神代、頼む。最悪でも全部オレから聞いたって言えば、オレのせいにできるから。