頑張る先生(神代望視点)
誠に生きて、と言った時、彼が「うぅ」なんて可愛く唸っていた理由が、日に日に重く可愛げの欠片もなく、誠を襲っていた。
神経系の難病。短命。
誠本人は、俺から聞かない限り、何も言ってこない。辛いともしんどいとも、何も。淡々と、いつもと同じ、を、必死で維持しようとしている。裏でどれだけ涙ぐましく闘っているか——は、徳永先生の機嫌を参考に、俺から聞き出す必要があった。
例えば足音のリズムが変わったと指摘すれば、
「ああ、ええと……脚。もう、力が入らなくて、全部外殻で動かしてて」
みたいにサラリと返してくるのだ。
「で、歩いてきたんです、か?」
「うん」
頷く仕草は可愛い。言ってることは凄まじい。
俺だって同じように外殻を使っていたから、分かる。徳永先生の補助なく外殻だけ使って歩くのに、どれだけの苦労と努力が必要か。
でもここで返すべき反応は、驚愕じゃない。
誠は、徳永先生と三人だけの時でもある程度の敬語を外して話してくれるけれど、二人きりになって誠自身のことが話題なら、もっとあどけない口調で喋る。それだけ俺に甘えてくれているってことだから、その分ちゃんと褒めたりして甘やかしてやりたい。だから俺は、誠が頑張ってくれたことには、絶対にお礼を言うんだ。
「ここまで歩いてきてくれて、ありがとう」
誠の耳が、赤くなった。照れてる、可愛い。
「……うん」
でも、やっぱり誠を蝕む病気はどんどん進行していって。歩くのに外殻だったのが身体を支えるのに外殻、腕を動かすのに外殻、そして——
『声 もう 出 なくなりまして。今日 から モニター で 失礼 します』
「……常葉先生……」
病室には徳永先生の他に看護師もいたから、お互いに医師と患者としての言葉遣い。
誠の首元からぶら下げられた、嫌というほど見覚えのあるモニター。肩から頭上に広がった外殻が大幅に増えているのは、まさか——
『呼吸器 の 代わり』
看護師が退室した後に聞いたら、やっぱり。
そんな病気だったなんて。どんどん動けなくなって、息さえもできなくなって——なのに、俺が頼んだから。
「気に病むもんじゃないぞ」
徳永先生も最近、他のスタッフがいなければ、変な敬語を使わなくなってきた。
「元々、寝たきりになったり呼吸器を使うようになるところを、外殻を使える分だけかなり好き勝手に動いてるからな、こいつ」
『好き勝手 言うな あ 言わないで』
「取り繕うのが遅いっすー」
徳永先生がからかっている。誠は目をすがめて、
『まだ 入力 慣れない』
「俺より慣れてるけど!?」
思わずツッコミを入れるレベルで誠の入力は滑らかだけれど、でも、そうか。
——もう、あの柔らかくて穏やかな声は、聞けないんだな。
そのことが、思ったよりも俺に響いていた。そしてこのまま更に病気が進行すれば、そのうち誠は表情さえも失くしてしまうんだ。かつての俺が、そうだったように。
いや、でもまだ何か、何かの手立てがあるかもしれない。俺が、奇跡的に回復したように。誠の命を繋ぎ止めたように。まだ、何か。
「諦めが悪いよな」
徳永先生が、呆れてる。それは俺と誠と、どちらに向けての言葉なのか、ちょっと分からなかった。