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筒抜けの先生(神代望視点)

 その日は脳波読み取り装置の定期メンテナンスの日だった。誠はもう外殻無しでは生きられないから、遠隔でプログラムを更新したらしい。そして俺の所にやってきて、外された俺の装置がプログラム更新ついでに掃除されるのを興味深げに観察していた。
 じっと装置を見つめる誠は、呼吸機能を外殻に投げてしまっているからか、精巧な造りの人形のようで。たまに瞬きすることに、安心する。まだ、生きてくれている。
 装置のメンテナンスが終わって、そのままリハビリの流れになって、装着して。
(いつ見ても、守、仕事熱心、なんだよね)
 ……? あれ、これ、俺の考え方じゃ、ないよな?
 頭の中に疑問符。そうしたら、増える疑問符。
(……僕、俺なんて言ったこと、あったっけ?)
 ——あ。分かった、これ。誠も、気付いた。
(えっ、考えてること、筒抜け……)
 バグだ。脳波読み取り装置が、バグった。
 リハビリに集中するどころじゃない。思わず誠と視線を交わす。困惑の感情もまた、行ったり来たりする。
「ん? どうした?」
 徳永先生は鋭いから、俺たちに何か異常事態が発生したことに、気付いたみたいだ。
(……えっ、と)
「『思考が、流れてきて』」
 モニターに出力しようとしたらしい誠の思考に、俺の口まで引っ張られた。言葉と同時にモニターにも出てきたから、多分そうだ。
(あっ、ごめん!)
 別に良いけど、気にしてはいない、けど。違和感は、半端ない。俺の口が動いた、そっちじゃなくて。聞こえたのが俺の声だって、いうのが。
 だって俺は、誠の声が、好きだった。
(……!!!)
 誠が一気に真っ赤になって、気付いた。伝わってた。うわ、伝わってた!?
「お前ら……二人揃って何赤くなってる。思考が流れてきて、で?」
「筒抜け、です……多分、お互いに」
「それは……」
 徳永先生は、一瞬絶句した。なのに、直ぐにニヤリと笑った。
「じゃあ神代、お前、誠が何を考えて、何を感じているか、分かるようになったってことだな?」
 その言葉で感じた動揺は、多分、誠の動揺だ。
「た、多分」
 徳永先生は、次に誠の方を見た。
「前々から思ってたんだよ。お前、ちょっと自分の気持ちに蓋をしすぎだって。こう、鈍感力ばっかり育てやがって」
(鈍感、力……)
「ほら、今お前、何を感じてる? 表示してみろ?」
 すごい迷いを、感じた。でも、その奥には確かに言葉にならない感情が、渦巻いていて。だからモニターには、出力されない。
「神代、分かるんだろう?」
 なるほど、そういうことか。
(どういうこと!?)
「鈍感じゃないって憤りと、俺があっさり筒抜けなことを言ったことや、その瞬間の徳永先生の笑顔に対する動揺と、でもそういうネガティブなことを言ってしまっても良いのかの、迷い、辺りですかね。で、多分徳永先生の意図には今、気付いたっぽいです」
(僕の情緒までリハビリする気だ……)
 だろうな。
『バグ 報告』
 モニターに表示してるけど、せっかくの繋がりが無くなるのは、俺は寂しいな。
 あ、モニターの表示消された。共犯関係の、成立だ。