若返った先生(神代望視点)
どう見たって、若返っているんだよなあ。
(そんなことない)
じゃあ、年齢退行したってことで良いか?
(……)
不服そうだな。
「年齢退行、は、酷い」
「じゃあ若返ってる、で。徳永先生、どう思いますか?」
「推定二十歳、どう見ても神代より若いぞ。童顔を極めたって誤魔化すにしても」
「酷いって。僕、三十歳。三十路!」
そうやって拗ねると、ますます若く見えるのに。と思った瞬間、睨まれる。可愛い。
でも笑い事ではないのも、確かだった。声を調整している最初の一週間でどんどん若返っていって、ぎょっとしていたら一応二十歳前後くらいの外見で留まったものの、そこからずっとリハビリの度に同じやり取りを繰り返している、気がする。
「検査の結果は?」
徳永先生の質問に、誠はますます微妙な顔をした。俺も直接聞くのは初めてだけど、一回誠がすごく不快さを感じていたのは知っている。だからロクな結果じゃない。
「……遺伝子異常。外殻に使われてるアレコレソレの植物の遺伝子が、混ざってる、みたい。下手したら屋久杉と同じくらい生きるかも? って、教授たちが興味津々」
……それは嫌な興味津々だな。
(嫌、って思って、良いの?)
勿論。
強く肯定したら誠の目尻が下がり、(良かった、嬉しい)なんて感情が流れ込んでくる。和むけど、和んでる場合じゃないんだって。
徳永先生が、眉間に皺を寄せた。
「屋久杉って、アレか。神代の外殻、屋久島地杉がベースだったな。しかも若いの」
「最初、屋久杉かと思ってビビったのは覚えてますよ。あんまりびっくりしたのと、徳永先生の説明が早口だったのの合わせ技で、ナノマシンの説明頭に入らなかった」
「僕の外殻には使ってないはずなんだけど、やっぱり望の外殻が基にあるみたいで、ちゃんと混ざってたって言われた」
……で、屋久杉並に生きる、可能性。
俺のわがままによる、死なないで、の、結果。
——あれ、でも、俺の外殻から行ったってことは。
「望、何か変なこと考えようとしてる?」
誠がわざわざ口に出した。多分、俺を止めようとして。徳永先生も巻き込まないと、止まらないだろうと思って。
うーん、誠の学習能力が高い。全部筒抜けなのも、良し悪しだな。
「神代?」
徳永先生まで怪訝な顔をしたので、降参の意味で肩をすくめた。
「俺の外殻からそんなこと起こったのなら、俺も? って思ったんですけど、俺のは誠のと違って取り外しできますからね」
降参したはずなのに、徳永先生の顔が強張った。どういうことだ?
「神代、お前……無意識か」
誠もまた、徳永先生と顔を見合わせて、(気付いてなかったんだ)みたいなことを考えている。
「じゃあ、外してみようか?」
硬い声での提案に、首を傾げつつ、応じる。脚の外殻、外れる。腕の外殻、外れる。
ほら、何も問題なんて——その時だった。誠がそっと、俺の首元に向かって、手を伸ばした。そして、俺自身の首に届く前に、「撫でられた」感覚が。
(望は交通事故が原因だったから、庇ってるのかと思ってた)
俺の首元に、もう融合して外れなくなった外殻が、グルリと巻いていた。