泣き笑いの先生(神代望視点)
そもそも鏡を見る機会が少なかった。朝は顔を拭くためのホットタオルが配られる、お風呂だって看護師が介助する。鏡を見たとしても、意識しなかった。手足は勿論、一時期は頭を支えるのにも、外殻を使っていたから。
でも、徳永先生も、誠も、首元に作った覚えのないパーツが増えていることを認識していた。融合しているとまでは思っていなかったようだけれど、俺が決してそれを外そうとしないから。事故のトラウマで首を庇っているのだろうと判断して、そっとしていたらしい。
「いつ、から……」
「首の後ろは、呼吸器から離脱した頃に見つけたな。一周したなと思ったのは、誠を助けてたとき」
だいぶ前から、そんなことに。
「無意識かもしれないとは思っていたけど、認識すらしていなかったとは……」
徳永先生、地味に落ち込んでいる声だ。
確かに、いつの間にか自分も変なことになっている。それにショックは感じている。
でも、どうしてだろう。今はそれ以上に、ほっとしているんだ。
だってさっきの話、誠に生きろって言っておいて、俺が先に置いて逝くことの方が辛かった。誠が俺に頼まれて、どんどん変な方向に無茶をして、手が届かない遠くに行くことが、不安だった。
もう、それは心配しなくても良い。どこまでだってついていける。いつまでだって一緒に。
「……望の、バカ」
俺の思考を流された誠が、泣きそうだ。もう少し、せめて徳永先生に言い訳くらいさせてくれ。お前が泣くと、俺まで引っ張られる気がする。いや、違うな。確実に、一緒に泣くだろう。
「おい神代、お前今何を考えてる」
「こうなったらもう遠慮なく、一生誠と添い遂げられるなって」
「誠のために、か」
「誠と俺のために、です」
はーっ、と、徳永先生、盛大に溜め息を吐いた。
「つくづく、オレの人の見る目は間違ってなかったって思うぞ。……頼む、望」
はい、と返事したかったのに、不意に目の奥が熱くなって、涙が零れた。これは、誠の涙だ。
さっきから俺がショックやら安堵やらをごっちゃにした感情を流しているお返しとばかりに、言葉にならない感謝と嬉しさで、涙腺を崩壊させている。
「本当、お前ら以心伝心すぎるんだよ。ほら、タオル」
「あ、ありがとうございま……」
「他のスタッフいなかったら、タメ口で良い。守呼びでもな」
それ、は。
(守、僕の保護者みたい)
つまり俺は、親御さんに誠を貰う許可を貰えたってことか?
うっかりそう考えたら、俺と同じく泣いていたはずの誠が、耳を更に赤くしてプルプルと震えた。可愛い。
タオルに顔を伏せた誠を横目に、徳永先生が——守が、ジトっと俺を睨んだ。
「今絶対、変なことやり取りしただろ」
さて、どう答えたものか。
(答えなくて良い!)
誠はそう言うけれど、バレバレなんだよな、俺たち。
「保護者に認められたのかなって思ったら、つい」
「誰が保護者だ!?」
頭をグリグリとされながら、笑ってしまった。守だって、途中から笑っていた。